家森幸男教授の講演および逸話


2000年11月6日

 先日、家森幸男教授と話をする機会があった。脳卒中易発症ラットの発見で、世界的に著名な先生である。彼は豆腐や納豆などの大豆製品の摂取が高脂血症や心筋梗塞のリスクを低下させることを、世界各国の住民に対する実験調査により証明した。

 彼は20年前に脳卒中易発症ラットの実験で、たとえ脳卒中(CVD)の遺伝子を有していても栄養によって脳卒中が予防できることを証明した。福井での講演会では予防栄養学の必要性が強調されていた。

 WHOの協力のもとで、彼は15年間かけて、世界各国に人々のCVDと栄養との関係を調査してきた。世界25カ国、60地域の48ー56歳の男女、それぞれ100人、合計で1万人以上の人たちの調査の結果、脳卒中の共通のリスクである高血圧は肥満と食塩の過剰摂取、それにマグネシウム、さらに蛋白質の摂取不足なども関係することが判明した。

 一方、虚血性心疾患は血中コレステロールが高い地域ほど多く、180〜200mg/dlの中庸の値で、最低であることが判明した。さらに、血圧、コレステロールを低下させる、魚介類に多いタウリンの尿中排泄が多い程、また大豆に多い女性ホルモン様作用のあるイソフラボンの尿中排出が多い程、さらに魚油に多く含まれるnー3系多価不飽和脂肪酸が血中のリン脂質に多い程、虚血性心疾患は少ないことも確認された。これらの栄養摂取は日本人では特に多いことから、豊富な魚介類や大豆製品の摂取が虚血性疾患を少なくし、日本人の長寿に貢献していると考えられている。

 また、沖縄の人は長寿が多いが、一番の元は食塩摂取量の違いであり、日本人平均では1日12gであるが、沖縄では8gである。沖縄ではCVDも癌も高血圧も少ない。ハワイに住む日系人に1日3gのDHA、5gのわかめの粉末、50mgの大豆のイソフラボンを10週間摂取してもらった結果、血圧で5mmHg,血清コレステロールで10mg/dlと有意に低下した。彼の話によると、5mmHgの血圧低下だけで、25%の高血圧患者を削減でき、その結果、日本人の医療費が年間4400億円減少させることができると説明していた。また、イソフラボン群ではさらに骨からのカルシウムの喪失が抑制されることが証明された。大豆製品はにおいがきつく、欧米人は嫌う傾向があり、今回の調査で次のような工夫がなされた。

 パンに大豆を加えるのだが、大豆をつぶすと、臭いが消えないので、細胞同士を接着しているペクチンを分解する酵素を作用させることにより、嫌な臭いがまったく消えることを応用した。非常においしいパンができあがったが、大坂の阪急百貨店でそのパンが販売されているそうだ。なんと1日の売り上げ高が200万円を越えるそうで、ギネスブックに載るかもしれないような売れ行きだそうだ。

 彼の結論は、食は遺伝子の支配を越えて生活習慣病を越えて、生活習慣病を予防し、人類の健康・長寿に貢献できること、そして、遺伝子により疾患の発症を予知し、栄養によって疾患を予防する、まさに未病を癒す医学の基礎が現代の医食同源論といえることだ。

 この世界各国を調査した時の苦労話を聞かせていただいた。アフリカのマサイ族の調査をしたが、彼らは調査したころには食塩摂取が0gだったので、高血圧の患者が誰もいなかった。10年後に再調査したところ、食塩摂取が1日6gになっていたが、高血圧の患者が10%に見られるようになった。高血圧を起こす遺伝子は単一ではないが、2カ月前に世界で初めて発見した遺伝子は、なんと環境に依存した高血圧の遺伝子であった。ナトリウムの量に反応して、その遺伝子が活性化されるそうだ。今、論文を作成しているというようなホットな話題であり、高血圧の発症が遺伝子で決まるわけではないことを示していて、非常に面白かった。

 マサイ族から採血をしたが、帰り際にその兵士たちに包囲されてしまい、採血管を置いていけと言われた。魂がもっていかれるという主張で、かなりの抵抗にあった。丁度、夕日が沈む直前で、その前にジープで帰らないと、ソマリアの難民に襲われることを覚悟しないといけなかったそうだ。採血の結果に対しては必ず報告するとか、必死に説明し、最後に頭を下げてお願いしたら兵士たちは理解してくれ、採血管を持っていくことを許してくれた。しかし、難関はそれだけではなかった。税関の検疫部門でお金を要求され、WHOの研究なのでお金は出せないと主張したら、採血管をすべて没収されてしまった。彼はショックで日本へ帰ったら髪の毛がすべて抜け落ちてしまい、何と生えてきた頭髪は白髪になってしまっていた。明智小五郎シリーズで生きたまま棺桶に入れられ、土葬された主人公が命からがら抜け出した時には白髪になっていたというテレビ番組を見たことがあったが、現実に起こりえるのだなと恐れ入ってしまった。

 この話には続きがあった。彼は小柄で顔が大きい精力あふれる好人物であり、気さくな先生である。彼はそんな目に会いながらも、世界中の調査に出かけた。中国を訪問し、やはり税関の検疫部門では1検体50元のお金を要求された。賄賂を要求されたわけだが、堂々と検体を渡した。実は彼は検体のダミーを持参していたのだった。血液の色をよく見れば、偽物とわかるはずなのに間抜けな検疫官だったのが幸いした。苦い経験を生かした成果だったが、その話を聞いていた我々は大爆笑していた。

http://www.iihanashi.com/news/news2003_02_2.htm

http://milk.asm.ne.jp/jimu/hitori/hitori_03.htm

http://www.kdcnet.ac.jp/sikamasu/SOLT.HTM

 

 

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