ボツリヌス中毒、患者が診断


                  ボツリヌス中毒、患者が診断

 1984年から1年間週1回岡崎市民病院に神経内科の代務に行っていた。この病院は患者数が多く、朝9時から午後1時までに約100人の外来患者をこなしていた。血圧は看護師に前もって測定してもらい、再診で変わりのない患者の診察時間は、原則的に1~2分で終えた。そうしないと午後1時までに終わらないし、患者も短時間の診察に慣れていた。初診患者もすばやく診察する習慣ができて有意義な代務であった。午後からは1時間位、内科の先生から依頼された患者を診察していた。

 一番印象深かった患者はICUで人工呼吸器管下にあり、内科医の診断では重症筋無力症であった。重症筋無力症は、神経筋接合部の筋肉側運動終板膜に存在するアセチルコリン受容体を標的とする抗体の存在により、神経筋接合部の伝達が阻害される自己免疫疾患である。その神経症状は下記のごとくである。

 1.随意筋の脱力と易疲労性を示す.脱力は休息で回復し、運動により増悪する.

2.眼瞼下垂と外眼筋麻痺による複視などで発症することが多い.

3.球麻痺症状(咀嚼,咽頭,舌などの筋力低下による嚥下障害、構音障害)

4.頸筋,顔面,四肢の近位筋などが障害されやすい.

 四肢麻痺、眼球運動障害、球麻痺、呼吸筋麻痺が、診察前日より出現したとのことであったが、重症筋無力症にしては急速な経過だなと不思議に思って診察に出かけた。

 ところが、驚いたことに、主治医が診断つきましたというではないか。なんとボツリヌス中毒だというのである。あやや! 教科書上の知識しかなくて不安であった。なんと患者がその日の新聞を見ていたらカラシレンコンによるボツリヌス中毒の記事を発見し、この新聞記事を指さしたのだった。珍しい食中毒ので、患者からの情報聴取が不十分だと、診断できない。患者自らが診断してくれたことで、合点がいった。

 上記の症状以外に、この患者では瞳孔散大が見られたが、この症状が重症筋無力症とボツリヌス中毒の鑑別点なのである。この中毒はボツリヌス菌が作りだす外毒素により汚染された食品を経口摂取することにより発症する。我が国ではE型菌毒素によるもの が大部分を占める。この菌は嫌気性菌(破傷風菌と同じ)で缶詰、いずし、ソーセージ、真空パック食品などで起こる。この毒素が神経終末からのアセチルコリンの遊離を阻害することにより神経症状をおこす。摂食後12~36時間の潜伏期を経て、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの腹部症状が先行する。その後、神経症状が出現する。ボツリヌス中毒とよく似た症状は感冒、下痢症状が前駆してその後、運動神経や自律神経が障害される炎症性末梢神経障害でも見られる。

 ”君の瞳は100万ボルト、~地上におりた最後の天使~”という歌が以前にはやっていたが、瞳孔の大きさや対光反射の反応の観察は面白い。瞳孔の大きさを調節する神経は交感神経と副交感神経である。前者は瞳孔散大筋、後者は瞳孔括約筋を支配する。びっくりした時は交感神経が優位になるので瞳孔が散大するし、暗所でも散大する。明るいところでは逆に縮瞳する。かなり以前に、テレビ番組で医者が患者の死を宣告する時、ライトを瞳孔に当ててから、ご臨終ですといったが、なんと驚いたことに瞳孔反応(対光反射)が見られ縮瞳していたのだ。初歩的なミスなので、笑ってしまったが、講義での笑わせるネタに使っているので役立っている。

 アセチルコリンは副交感神経の神経伝達物質であり、神経・筋接合部の伝達物質でもある。ボツリヌス中毒ではアセチルコリンの遊離が障害されるため、副交感神経の活動が抑制され交感神経が優位になるため、瞳孔は散大する。一方、例の地下鉄サリン事件のサリン中毒であるが、これは有機リン中毒の一種である。有機リン化合物であるサリンは、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼという酵素に結合してその作用を阻害するため、神経終末にアセチルコリンが増加しすぎて神経症状をおこす。副交感神経優位になるため瞳孔は収縮し、視野が狭くなる。治療はアセチルコリンの阻害剤である硫酸アトロピンと、キレート剤のPAMを用いる。

 http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf/0/ffb719cd55893f04492567e700306ee0?OpenDocument (ボツリヌス中毒)

http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec06/ch095/ch095c.html (重症筋無力症、ボツリヌス中毒

http://www.medissue.co.jp/virus/microbiology/main_019.htm (グラム陽性菌)

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