1リットルの涙、治療可能な脊髄小脳変性症は存在するのか?


                               1リットルの涙、治療可能な脊髄小脳変性症は存在するのか?

テレビドラマ「1リットルの涙」では、脊髄小脳変性症(SCD)の女子高校生が主役である。このドラマの元になった患者は僕が名大の大学院生だったころに名大病院に入院していたそうだ。教授回診の時か、外来でのベシュライバー(教授が神経学的所見を述べるのをカルテに記載する)のときに見たことがあるかもしれないが、記憶に残っていなかった。当時、名大神経内科で、遺伝性運動失調マウスであるrolling mouse Nagoyaに対するTRHの投与が神経症状を劇的に改善することが発見された。実際にSCD患者にTRHを注射して、その有効性を検討していたころだった。その当時、TRHがSCD患者の眼球運動障害に対する効果を研究していたのが、主治医の山本紘子先生であった。

そのころ、1年先輩のK先生がSCDの臨床的研究をしていたが、神経内科という専門誌にその疾患の分類の総説を書くことなり、大変苦労していた。彼は非常に優秀で、フランスへの国費留学が決定していたが、突然、胃癌でこの世を去ってしまった。日本神経病理学会のときに同じ宿に泊まったが、風呂場で見た彼はひどくやせていたことに驚いてしまった。そのときに彼が発した言葉は、「わしはあかん、先が短い。太く短い人生だな。先生は長い人生を生きてがんばってくれ!」だった。その1ヶ月後に彼は亡くなってしまった。入院中は慰める言葉がなくて、一度も病室に見舞いにはいくことができなかった。

現在のSCDの分類は当時と比べて、大きく様変わりした。遺伝性SCD(SCA)の遺伝子異常が次々と発見されたからである。ペンシルバニア大に留学していた時に、有名なRowland教授の講演を聞いたことがあった。彼は非常に教育的な講演をしたが、Machado-Joseph病(MJD)の紹介をした。ポルトガルに多い遺伝性SCDであったが、その病因として、アストロサイトが関係しているかもしれないと述べた。僕は小脳神経細胞が変性するので、おかしいと思ったが、質問はできなかった。3年間の留学後、日本に帰ったが、大府市の国立療養所中部病院に勤務していた時に、初めて、その患者を受け持った。彼はびっくりまなこを呈する典型的なMJD患者だった。当時、日本ではまれだと思われていたが、その後、遺伝子診断が可能となり、日本では遺伝性SCDの半数を占めることが判明した。常染色体優性遺伝の病気で、両親のどちらかが病気を持ち、子供の半数が病気を持つことになる。MJDは、CAGリピート病のひとつであるが、CAGがコードするアミノ酸であるグルタミンが異常伸長し、ポリグルタミン病とも呼ばれる。この物質が核の中に蓄積・凝集することにより、神経細胞が障害されると考えられている。まだ、MJDに対する根本的な治療法が開発されていない。

 

ところで、ビタミンE欠乏性SCD(AVED:ataxia with isolated vitamin E deficiency)が1980年代に報告され、ビタミンEの大量投与が神経症状の進展を抑制し、現存する神経症状を軽度に改善することが報告された。この疾患は日本でも1990年代に報告があったが、非常に稀な常染色体劣性遺伝性疾患であり、運動失調、深部感覚障害を呈するFriedreich失調症様症状を呈する。このビタミンEが欠乏する理由はα-トコフェロール転移蛋白(TTP)の遺伝子異常であることが判明した。ビタミンEは脂質の抗酸化作用を持つラジカルスカベンジャーである。ビタミンEのうち、生理的活性を持つのはα-トコフェロールである。α-TTPは肝細胞に豊富に存在する。空腸で吸収されて、カイロミクロンに取り込まれたα-トコフェロールをα-TTPは肝臓で取り込み、肝臓で合成されたVLDL(超低比重リポ蛋白)に転送することによりリサイクルして血中濃度を維持する働きをすると考えられている。AVED患者では肝臓でのα-TTPの機能が低下しているため、血中のα-トコフェロールを保持することができず、その濃度が低下すると考えられている。α-TTPの遺伝子異常はフレームシフト変異、ナンセンス変異、ミスセンス変異が報告されている。α-TTP酵素活性が非常に低いと、ビタミンEの血中濃度は、1㎎/L以下と極端に低く、神経症状の発症が小児期から始まる。それ以上の濃度である場合は、発症は思春期、場合により成人発症も報告されている。もし、1リットルの涙の主人公の病気がビタミンE欠乏によるものであったなら、ビタミンE大量投与療法が有効だったかもしれない。

 

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