脚気をめぐる話題:森鴎外の傲慢さ、高木兼寛の科学性合理性

土屋雅春:『医者のみた福沢諭吉―先生、ミイラとなって昭和に出現』(中公新書)

福沢諭吉は『学問のすすめ』などで誰でも知っている日本の大偉人の一人である(他の参考文献;小川鼎三著『医学の歴史』(中公新書)、小長谷正明著『脳と神経内科』(岩波新書)、平山恵造編『臨床神経内科学』(南山堂))。

脚気という病気はビタミンB1欠乏による病気である。最近では医原性の病気(医者が治療により病気をおこす)の一つとして、ビタミンB1欠乏によるウエルニッケ・コルサコフ症候群が有名である。妊娠中毒症の症状には、嘔気、食思不振などがある。点滴注射で電解質や糖を補う際にビタミンB1の投与を怠った時に意識障害、運動失調、眼球運動障害が見られ(ウエルニッケ脳症)、ビタミンB1をすぐに補給しないと、さらにコルサコフ症候群という病態が出現する。コルサコフ症候群は健忘症、見当識障害、作話の三主徴を呈するが、特に新たな記憶の形成障害が観察される。障害が重い場合は、1分前に覚えた言葉も思いだせなくなる。僕の経験した患者では、症状発現早期にビタミンB1を投与したので、ウエルニッケ脳症の症状は翌日にはほとんど消失したが、コルサコフ症候群の症状のうち記銘力障害が長く残って、1カ月後では記憶が1日のみしか持続しなかった。

医原性の疾患は意外と多く、我々医師は本当に注意しなければならない。こういう症例は医療過誤裁判になることがある。1992年に保険対象からビタミンが原則的に外されたことが背景にあり、ビタミン剤はその不足の症状がみられない場合は、日常的に点滴の補液の中に入れてはいけないということになってから、その後このような症例が発生している。

ビタミンB1は補酵素(酵素の働きを助ける)の一種で、ピルビン酸などのケト酸の代謝に関与する。

ビタミンB1にまつわるいくつかの興味深い歴史上のエピソードがある。ビタミンB1の発見者は鈴木梅太郎(1911)である。

それ以前、明治時代には脚気として恐れられていた。日本の陸海軍は総兵員の三分の一が、脚気にかかった。足のむくみから始まり、しびれ、倦怠感、感覚異常などの症状が出現し、ひどい場合は心不全もおこす。

北里柴三郎(細菌学の祖といわれるコッホの弟子となり、ジフテリア、破傷風などの免疫療法を発明し、この業績で1901年の第一回ノーベル医学賞の対象となったが、この時、東大一派の反対で受賞者の中には彼の名前はなかった)緒方正規(東大衛生学教授)や森林太郎(鴎外)ら官学一派との論争が激しかった。当時、緒方正規が脚気の原因は脚気菌によるとする論文を発表した。北里はその論文に対して反論の論文を発表した。北里は東大の鬼子とレッテルをはられ、ドイツ留学から戻った時は四面楚歌の環境だった。

そこで、福沢諭吉は長与専斎の助言のもとに、日本初の伝染病研究所を彼のために福沢諭吉個人で開設した。森鴎外は陸軍省医務局長であり、『舞姫』で文壇に登場し、その後の作品でも優れた評価を受けたが、医人としては偏狭で官位をかさに着た、人を救う医師として許すべからざる人物であったことはあまり知られていない。

海軍軍医の高木兼寛(鹿児島医学校で英国の医師ウィリスに学んだ)は、脚気の原因は食物と関係があるのではないかと推定した。彼はその仮説を証明すべく、軍艦2隻が遠洋航海にでることになったので、航海中の食物を両群で異なるものにした。一方は従来と同じ食物、他方は白米を減じて麦を混じた上に肉類などを多くした食事にした。前者は多数の脚気患者を出したが、後者はそれが、著しく少なかった。

高木がこの食事原因説を何度も森に進言したが、拒否された。日清・日露戦争の時の脚気患者の数が陸軍と海軍で極端に異なった。陸軍は4万人、海軍は0人の脚気の発生であった。海軍は麦飯にかえたが、陸軍は胚芽をけずった白米を常用としていたためだった。日露戦争の時も同様の結果であったにも関わらず、森鴎外は最後まで、己の非を認める事はせずに死んでしまった。「信じられない程の傲慢さである」と、土屋雅春教授が述べている。

http://p-www.iwate-pu.ac.jp/~tokuhisa/watanabe/wat_20020729.html

http://www.bl.mmtr.or.jp/~shinjou/kakke.htm

http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1090197

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E9%B4%8E%E5%A4%96

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