卵巣奇形腫に合併した非ヘルペス性辺縁系脳炎


卵巣奇形腫に合併した非ヘルペス性辺縁系脳炎

 

若年女性に好発する非ヘルペス性辺縁系脳炎は神経内科領域で以前から注目されていたが、2007年にペンシルバニア大学のDalmau教授らにより、抗NMDA受容体抗体が病態に関与し、卵巣奇形腫を合併することが報告された。

 

http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?artid=1936221

(Ann Neurol 2007)

http://www.hosp.go.jp/~szec2/06/06-1-2-15.pdf

(急性辺縁系脳炎等の自己免疫介在性脳炎・脳症」 の診断スキーム)

辺縁系脳炎の臨床症状・所見:

1.    精神症状等(行動異常、思考滅裂、興奮状態、幻聴、精神運動興奮状態、

2.    統合失調様症状、記憶障害、せん妄、性欲亢進など)

けいれん発作、けいれん重積、口周囲異常運動

3.    自律神経症状(呼吸・循環動態不全、持続覚醒)

 

当院では、11年前と去年に同様症例を経験した。第13回日本神経感染症学会総会に演題を出したところ、ワークショップに採択された。他の4演題が大学からの報告であり、市中病院からの発表は当院からだけである。

 

なお、以前に大学勤務時代に、コクサッキーウイルスB4による脳炎の1例を臨床神経学に報告したことがあったが、もしかしたら、卵巣奇形腫を合併していたかもしれない。

臨床神経学は学会誌であり、PubMedに、Abstractが記載されている。

 

Rinsho Shinkeigaku. 1998 Jan; 38 (1):60-2.

[Coxsackie virus B4 encephalitis in a young female who developed mental symptoms, and consciousness disturbance, and completely recovered][Article in Japanese]

 

An 18-year-old female had common cold and insomnia in early March 1987. Later, abnormal speech and behavior, emotional incontinence, anorexia and consciousness disturbance appeared. On March 19, she was admitted to our hospital in semi-comatose state. Myoclonus-like movement on hands was observed, and epileptic attacks with tonic and clonic convulsions occasionally occurred. There were no neurological findings that suspected cerebral focal lesions. The respiration was assisted through tracheal intubation. Laboratory examinations showed inflammatory reactions (CRP+2, WBC 10,600) and transient high levels serum CK (6,215 IU). As she had bradycardia (30-40/min) with complete AV block on ECG, the pacemaker was implanted. The complication of myocarditis was suspected. EEG showed bilateral slow waves (3-6Hz), dominantly in frontal areas. Brain CT and CSF examinations were normal. After the combined administration of ara-A, dexamethasone and anti-convulsant, the consciousness level was recovered within a month. The serum antibody against coxsackie virus B4 alone was significantly increased. We concluded that coxsackie virus B4 caused acute encephalitis with mental symptoms and myocarditis with AV block. Recently, cytomegalovirus was reported to be the causative virus in a young female with non-HSV encephalitis who showed mental symptoms with good prognosis, but coxsackie virus B4 should also be considered as one of the causative viruses.

 

1011日(土) 15:001630

 司会: 鈴木 則宏(慶應義塾大学 神経内科)亀井 聡 (日本大学 神経内科)  

若年女性に好発する脳炎

演 題 名

W 若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎(acute juvenile female non-herpetic

encephalitis:AJFNHE)-全国調査の報告

日本大学(神経内科)亀井 聡

W 当科における抗NMDAレセプター抗体関連脳炎3症例の検討

自治医科大学(神経内科)島崎 晴雄

W 卵巣奇形腫に合併した非ヘルペス性辺縁系脳炎の2

    (私が発表する)

W 若年女性に好発する急性非ヘルペス性脳炎が疑われる1

川崎医科大学(神経内科)久徳 弓子

W NMDAR関連脳炎様精神症状、不随意運動を伴ったBickerstaff型脳幹脳炎の若年女

性の一例

順天堂大学(脳神経内科)河野 彩子

 

卵巣奇形腫に伴う脳炎症例は藤田保健衛生大学の野倉先生や山本先生により、世界で初めて、1997年に報告された。

Nokura K, Yamamoto H, Okawara Y, Koga H, Osawa H, Sakai K. Reversible limbic encephalitis caused by ovarian teratoma. Acta Neurol Scand 1997; 95:367–373.

 

A 19-year-old woman developed memory loss followed by psychosis, coma, convulsion, and central hypoventilation requiring mechanical ventilation. MRI of the brain showed minimal changes, and SPECT imaging revealed a small region of increased uptake in the cortex. Intravenous acyclovir and high-dose corticosteroids were administered without any effect. An extensive work-up revealed an elevated serum alpha-fetoprotein (AFP) concentration and the presence of an ovarian tumor. Following resection of the tumor, an immature teratoma by pathology, the patient had significant recovery of her cognitive function with some psychotic sequela. Serum anti-neuronal antibody (anti-Hu) was negative both by immunohistochemistry and by Western blot analysis. A rare combination of paraneoplastic limbic encephalitis and brainstem encephalitis was the suspected diagnosis. Because the tumor contained a neuronal component, we propose an immunologic cross-reaction as the pathomechanism, but the lack of a specific antibody may suggest cell-mediated rather than globulin-mediated immunity.

 

その患者のことを紹介した記事がある新聞に掲載されていたので、一部引用する。山本紘子教授は、「1リットルの涙」を書いた患者の主治医であった先生であり、日本神経学会の初めての女性理事である。

 

参考記事:(一部伏字にした)

卵巣奇形腫、辺縁系脳炎を克服、脳障害後遺症からあり得ないはずの復活(愛知県・さん 女性31—) (2006/6/16)

◇卵巣奇形腫、辺縁系脳炎で死に直面

1994(平成6)12月、19歳の時、さんは突然のめまいに襲われた。翌日から、高熱、頭痛、腹痛、おう吐に苦しんだ。突然、泣いたり笑ったりと、精神も不安定になった。そうした状態が1週間続いた。さんは、そのころから約2年間、記憶がないと言う。

一番上の姉が、当時の状況を日記に綴っている。それによると、さんは昏睡状態で藤田保健衛生大学病院に運ばれた。10日後に意識が回復した。超音波検査で、卵巣にこぶし大の腫瘍が発見された。病名は「卵巣奇形腫」。その腫瘍に対する抗体が脳にも働き、「辺縁系脳炎」を引き起こしていた。

すぐ手術をして腫瘍を取り除かないと、命の危険に及ぶ。さんはこの時、自力での呼吸が困難になり、気管を切開して人工呼吸器を付けられていた。けいれんも頻繁に起きていた。手術に耐えられる体力があるかどうかわからない。

医師は、「手術をしなければ治りませんが、かなりの危険が伴います」と説明し、決断を家族にゆだねた。父は、2年前に胆管がんで亡くなっていた。気丈な母であったが、弱気になった。この子が死んだら私もいっしょに死ぬ……。

(中略)

高熱とけいれんが続く。医師は慎重にさんの容体を見極め、手術に踏み切る。家族の強い祈りにも包まれ、右卵巣の摘出手術が成功した。

◇脳炎後遺症との闘いからあり得ないはずの復活へ

 

手術後、体は順調に回復した。しかし、声をかけても反応がない。言葉もなかなか出てこない。脳炎の後遺症だった。知的障害。

さんは、精神病院に移り、入退院をくり返した。外出しても、いつ、てんかんを起こして倒れるかわからない。エスカレーターで発作を起こし、転がり落ちたこともあった。

1996(平成8)5月、脳炎発症から1年半後のこと、医師が母に告げた。「これ以上、入院を続けても、7歳児以上の脳には戻りません」。

しかし、母は動揺しなかった。決意は固い。必ず治してみせる! 母子二人三脚の真剣な闘いが始まった。

退院後、文字を読む練習を開始した。ふるえる右手を支えてもらい、字を書く訓練も積んだ。(中略)

1997(平成9)2月、さんは近所の総菜店で働き始めた。だが、一つ教えられても、すぐに忘れてしまう。毎日同じことで厳しく注意された。涙があふれる。家に帰っては、やめたいと漏らした。

(中略)

さんは努力に努力を重ねた。注意されたことをすべてノートに書きこみ、けなされようが、バカにされようが、前向きに仕事に挑戦していった。

(中略)

1999(平成11)、診察を終えた医師が、さんに告げた。「何も問題ありあません。もう来なくても大丈夫です」 発症から4年あまり。治らないと言われていた脳が、劇的な回復を遂げたのだった。

(中略)

さんの担当医の声

藤田保健衛生大学坂文種報徳會ばんぶんたねほうとくかい 病院

神経内科教授 山本病院長

さんの病気は、傍腫瘍性症候群による「辺縁系脳炎」で、そのころ注目され始めた疾患でした。

当時勤務していた藤田保健衛生大学病院の神経内科で診察した時は、意識はもうろうとし、発語もほとんどなく、目もうつろな状態でした。初めは精神科で、うつ病や統合失調症として治療されていましたが、どこかに腫瘍があるのではないかとの疑いをもち、いろいろ検査した結果、卵巣に奇形腫が発見されました。

この間、昏睡で人工呼吸器が必要な状態が続いていましたが、産婦人科医を説得して卵巣摘出手術を断行しました。その結果、術後2日目に自発呼吸が見られ、5日目には開眼、11日目には話しかけにうなずき、笑うようになりました。

しばらくは、後遺症による筋力低下、感情障害、記憶障害も残りましたが、見事に回復され、結婚して元気なお子さんに恵まれたさんの姿を、大変うれしく思います。私たち医療者も十分勉強させていただき、本当に良かったと実感しています。

 

PS:

今年の日本神経学会総会で、Dalmau教授の講演があったので、抗NMDA受容体脳炎について、彼の最新のデータを近日中に紹介する。

http://blog.with2.net/link.php/36571

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