パーキンソン病の周術期管理に神経内科医が関与すべきである

2013919日 PD Forum

 ―パーキンソン病の周術期管理に神経内科医が関与すべきである―

当科の専修医に下記の論文の紹介をしてもらった。

自見隆弘ら:周術期に症候の悪化を認めたParkinson病の臨床的検討

神経治療22:535-539,2005.

【要約】周術期に症候の悪化を認めたParkinson病5例について患者背景,手術,麻酔の種類,手術前後のHoehn-Yahr重症度,手術前後の抗Parkinson病薬と他の薬剤の投与状況,合併症,予後などを臨床的に調査した.手術は2例が消化器系悪性腫瘍,2例が大腿骨頸部骨折,1例が副鼻腔炎に対する手術であり,麻酔は全身麻酔3例,腰椎麻酔2例で行われた。4例でHoehn-Yahr重症度の悪化を認め,全例で手術後に抗Parkinson病薬の増量がなされていた.手術後,2例で精神症状の悪化のために抗精神病薬の投与がなされていた.Intensive care unit(ICU)症候群や悪性症候群,原因不明の急性呼吸不全,腸閉塞,肺炎などの合併症が見られた.Parkinson病では,外科手術の前後で症候の悪化を認める場合がある.神経内科医はこのことを認識し,外科医と協力して診療にあたるとともに,抗精神病薬の投与などの悪化因子をできるだけ避けるとともに十分量の抗Parkinson病薬の投与や術後すみやかなリハビリテーションの導入などを心掛ける必要がある.

【結果】

1.年齢・性別:症例は57歳から76歳,平均68.8歳で,男性3例,女性2例であった.

2.手術の原因疾患:外科手術の内訳は大腸癌が1例,転移性肝癌が1例,大腿骨頸部骨折が2例,副鼻腔炎が1例であった.

3.麻酔の種類:麻酔の種類は,全身麻酔が3例,脊椎麻酔が2例であった.

4.手術前後のHoehn-Yahr重症度:手術前のHoehn-Yahr重症度は3が3例で4は2例であった.また手術後,最もParkinson病の悪化した状態のHoehn-Yahr重症度は3が1例,4が2例で5が2例であった.1例の不変を除き増悪していた.不変であった症例5もHoehn-Yahr重症度3の範囲内で無動と固縮の増悪を認めた.

5.手術前後の抗PD薬の服薬状況:術前はすべての患者がlevodopaを含む複数の抗PD薬を使用していた.手術後は2例がlevodopa注射薬の投与を受け,その投与量は50または75mgであった.手術後PDの悪化のため,全例で抗PD薬の増量がなされていた.なお,手術中に抗PD薬が投与された症例はなかった.

6.抗PD病薬以外の投薬状況:2例で精神症状に対し抗精神病薬が投与されていた.また,術後制酸薬としてヒスタミンH2受容体拮抗薬が注射薬で2例に使用されていた.

7.周術期の合併症:周術期合併症を3例で認めた.症例1ではICU症候群と思われる精神症状と悪性症候群を,症例2ではParkinson症状,特に無動の悪化とともに原因不明の急性呼吸不全に陥り気管切開を施行した.症例4では術後腸閉塞から腸管感染症に加えて肺炎を併発し気管切開を行った.

8.予後:3例は,周術期の一過性のParkinson病の増悪の後,ほぼ入院時の状態に回復した.症例4は,Parkinson病の改善のないまま合併症で死亡した.また症例2はParkinson病が術前ほど回復しないまま他院へ転院した.

考察

今回検討した5症例では,手術の原因疾患もさまざまであり,また麻酔も全身麻酔が3例,脊椎麻酔が2例と,手術の原因疾患や麻酔の種類についての偏りを指摘できなかった.しかし,消化器系手術は抗Parkinson病薬の経口からの吸収低下が,大腿骨頸部骨折手術は術後安静・臥床を強いられることが増悪に関係した可能性もある.手術前後でのHoehn-Yahr重症度でみると1例は同じ重症度の範囲内の悪化であったが,他の4症例は1段階悪化していた.抗Parkinson病薬が術後全例で増量されたのは術後のParkinson病の悪化の結果と考えられる.術後Parkinson病が悪化したことについて各症例の悪化要因を推定した.

症例1と4は,消化管手術を受け,特に症例4では術後経管栄養がなされた.手術の直接の影響,また経管栄養のために抗Parkinson病薬の投与剤型の変化が薬剤の吸収や効力に影響した可能性が考えられた.実際levodopa製剤の中には粉砕した場合,湿気吸収により力価の低下することがある.また,2例でlevodopaの注射薬が使用されていたが,経口投与に比較し効果が不十分であった.日本で唯一認可されている注射用levodopa製剤の添付文書上の用法・容量では1日使用量が原則25~50mgとなっている.Rosinらは4,000mg/日,また本邦でも野倉ら,宝来らが2,000mg以上の大量使用例を報告している.一方,水野はlevodopa脱炭酸酵素阻害薬の合剤100mgあたりlevodopa注射薬50から100mgの割合で1日2,3回静脈注射をすすめている.今後,Parkinson病患者の至適な注射薬投与量についての厳密な検討が必要と思われる.

今回の分析で,Parkinson病は手術を契機に悪化する場合があることがわかった.対策としては,まず第一に手術でParkinson病が悪化する場合があることを,神経内科医だけでなく執刀する外科医も認識しておくことが必要であり,チームを組んで対応する必要がある.2つ目に手術前後での脱水,発熱,便秘などの増悪因子を可能な限り避け,増悪を惹起する薬剤(抗精神病薬.制酸剤など)を必要最小限にすることと十分量の抗Parkinson病薬の投与とともに,経管よりの投与や注射薬での投与時にはより慎重な配慮が必要である.3つ目に安静臥床による直接・間接の弊害が影響を与えている可能性があり,速やかなリハビリテーションの導入やストレスの除去が重要と思われた.

神経内科医への早期コンサルトの有用性

Mehta S et al. (2008). Total knee arthroplasty in patients with Parkinson’s disease: impact of early postoperative neurologic intervention. Am J Orthop, 37, 513-516.

http://ped.imng.com/fileadmin/qhi_archive/ArticlePDF/AJO/037100513.pdf

PDの早期の医学的管理がTKA (total knee arthroplasty)のアウトカムに影響を与えるかを検討した。34例のPD患者が対象で13例が術前・術後直後に、21例が術後翌日以降に神経内科医にコンサルトされた。臨床的アウトカムと機能的な改善は Knee Society scoring systemと Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS)で評価された.

両群では術前に有意な差異は見られなかった。平均follow-up期間は36か月であった。

術前・術直後のコンサルト群は遅発コンサルト群に比べて、2.5日在院日数が少なく、

Knee Society Pain and Function scoresで 19点もより改善が認められ、さらにUPDRS Severity scoreでも統計学的に優位な改善が見られたが、遅発コンサルト群では見られなかった。

 周術期PD患者管理の新たな試み:rotigotine transdermal patchの有用性

Wüllner U et al. Transdermal rotigotine for the perioperative management of Parkinson’s disease. J Neural Transm (2010) 117:855-859

http://link.springer.com/article/10.1007/s00702-010-0425-4/fulltext.html

PDを合併する外科患者で周術期に抗PD薬の継続的な投与はオフ症状を避けるために望ましい。全身麻酔下で外科手術を受ける14例のPD患者が周術期に経口ドパミン作動性薬剤から24時間経皮的に投与されるrotigotine(平均用量12mg/日)に変更された。rotigotine治療はPD症状の良好なコントロールとPD薬の容易な変更と再変更が可能で、患者、麻酔科医、神経内科医によって実行可能と判断された。

Rotigotine; non-ergot dopamine agonist with D3/D2/D1 activity (ニュープロ)

Ope前日の午後7時に貼付(経口薬はope前日正午まで服用)Rotigotine用量は神経内科医の裁量にまかせた(目標用量に関するガイダンスは下記などの文献によった):

Giladi, N., Boroojerdi, B., Korczyn, A. D., Burn, D. J., Clarke, C. E., & Schapira, A. H. (2007). Rotigotine transdermal patch in early Parkinson’s disease: A randomized, double‐blind, controlled study versus placebo and ropinirole. Movement Disorders, 22(16), 2398-2404.)

Table2:患者のベースラインとなる特徴:14例(男7、女7)平均年齢68.7±5.9歳、平均H-Y stage 2.5、平均PD期間8.1 ±5.6年.12例が手術を受け、1例が術後に同意を撤回した. 整形外科的手術7例で一番多かった.大多数の患者は複数の薬を服用していた。

平均levodopa equivalent dose 665± 359mg, Rotigotineの投与期間:9例(64.3%)24

時間、3例(21. 4%)2日、2例(14.3%)5日平均用量 12mg/24h (2-16 mg/24h)

臨床評価:周術期にrotigotine治療にスイッチする実行可能性について、質問事項を使用して手術の当日に麻酔科医により、また、safety follow-up中に神経内科医と患者に評価された。Rating Scaleは1(完全に同意する)から6(まったく同意しない)までであった。

すべての評価は9例で行われた。Rotigotine経皮パッチがPD患者の周術期管理の実行可能な選択肢であることを大多数の神経内科医(88.9%)、麻酔科医(88.9%)、すべての患者(100%)は完全に同意(rating 1)、または同意した(rating 2)。すべての患者はPD症状は良好にコントロールされている(rating 1または2)と述べ、専門家が大多数の患者は予期しない周術期のPD症状を呈しなかったことに対応した。また、パッチの処理、PD薬の変更、再変更は容易に実行可能であると判定した。

重篤な副作用:1例激しい嘔気と中等度の幻覚,1例心室静止(自然軽快); 両例とも改善した。

Take Home Message

  1. 周術期のパーキンソン病治療には初期から神経内科医の関与が必要です。外科医、整形外科医、消化器科医は気楽に神経内科医にコンサルトしてください。

2.薬剤の添付文書(1日の使用量が25~50mgが原則)のドパストンの用法・容量では効

果はありません。Levodopa合剤100mgあたり50~100mgを1日3回60分で投与してください。

3.新しい治療薬であるロチゴチンパッチ(ニュープロ)が有効であるとの報告があり、今後の検討課題です。

4.数日の服薬中止後に悪性症候群を呈さなくても、パーキンソン病の重篤化が見られ、治療に難渋することがあるので周術期には特に注意が肝要です。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3130138/

Gerlach, O. H., Winogrodzka, A., & Weber, W. E. (2011). Clinical problems in the hospitalized Parkinson’s disease patient: systematic review. Movement Disorders, 26(2), 197-208.

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marugametorao について

神経内科専門医 neurologist
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