神経学の先達たちの名言―「神経症候学は神経学の“魂”である」

神経学の先達たちの名言―「神経症候学は神経学の“魂”である」

去年の日本神経治療学会は、河村満会長の一番のテーマである「神経症候学は神経学の“魂”である」のシンポジウムは圧巻であった。神経内科をめざした若き時代は、CTが出始めたころであり、MRIはまだ出現していなかった。神経内科診療はハンマー、ルーレット、筆などの道具を用いて、患者を診察し、診断をしていくのであるが、ハンマーの使い方は職人的技法であり、自分がやると、反射がうまくでないのに、祖父江逸郎先生が行うときれいに出てくるのには感嘆した。今回のテーマの内容は素晴らしかったが、Brain and Nerveに、2014年11月号に特集号として、学会場で販売されていたのだ。早速、購入した。勤務する病院ではMedical Finderにて無料でその雑誌は閲覧できるが。Medical Finderは医学書院の検索エンジンであるが、当院では3年前に私が導入することを決定したが、非常に便利で他のコメディカルスタッフにも好評であり、感謝されたことがある。福武敏夫先生の書かれたMiller Fisherと葛原茂樹先生の書かれたWartenbergに関する記載内容が素晴らしかったので紹介する。他の論文も力作であり、一読を勧める。

http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=35731

福武敏夫:チャールズミラーフィッシャー 偉大なる観察者. BRAIN and NERVE 66:1317-1325, 2014

Ⅳ.CMFのルール―臨床医学の不滅の方法論

CMFの臨床神経学に対する態度についてはカプランによってまとめられた「17のルール」(和訳は筆者による)がある。このうち特に診断,すなわち症候学的発見に関するものとして次の5つがある。

(1) The bedside can be your laboratory. Study the patient seriously.(ベッドサイドは君の研究場所だ。真剣に患者から学びなさい。)

(2) Settle an issue as it arises at the bedside.(ベッドサイドで生じた論点は解決するようにしなさい。)

(3) Make a hypothesis and then try as hard as you can disprove it or find the exception before accepting it as valid.(仮説を立てなさい,その後に,それを正しいと受け入れる前に反証したり例外を見つけたりするよう精一杯努力しなさい。)

(13) Pay particular attention to the specifics of the patient with a known diagnosis; it will be helpful later when similar phenomena occur in an unknown case.(診断がついている患者ではどこかに特異的なことがないか特別の注意を払いなさい;後に同じような現象が診断未定の症例でみられたときに役立つだろう。)

(15) Resist the temptation to prematurely place a case or disorder in to a diagnostic cubbyhole that fits poorly.(不十分な検討のままで,症例や疾患をあまり合致しない診断でとりあえず済ましてしまう誘惑には抵抗しなさい。)

さらに,発見を世界的に共有するために,

(6) Describe quantitatively and precisely.(量的にそして正確に記載しなさい。)

(8) Collect and categorize phenomena; their mechanism and meaning may become clearer later if enough cases are gathered.(現象を集め,分類しなさい;その機序や意味は後で十分な症例が集まったら明快になるだろう。)

(10) Learn from your own past experience and that of others (literature and experienced colleagues).(君自身の過去の経験と他の人[文献や経験者]の経験から学びなさい。)

(12) Write often and carefully. Let others gain from your work and ideas.(論文を多くかつ入念に書きなさい。君の論文や発想から他人によく学んでもらいなさい。)

と述べている。

以上のルールは,理屈から出発するのではなく観察を通じて患者から学び,患者にその成果を返すという臨床医学の基本中の基本を述べたものといえよう。

おわりに

ここまでの記述で,冒頭の新進気鋭の神経内科医への回答としては十分と思われるが,さらに,CMFの最後のルールを挙げておきたい。

(17)Maintain a lively interest in patients as people.(人間としての患者に対し強い興味を持ち続けなさい。)

ここにこそ,CMFの真髄,すなわちこれからの神経学,神経症候学が果たすべき役割についての最も大切な指針があると信じるからである。興味(好奇心)がなければ観察はできず,また観察こそが患者への貢献への途であることをCMFの生涯は示している。

 

葛原茂樹:ワルテンベルク. BRAIN and NERVE 66:1301-1308, 2014

3.神経学的診察の意味と目的―序文中の言葉から

最後に『(外来診察室での)神経学的診察法』の序文にある言葉のいくつかを紹介する。いずれもワルテンベルクの臨床神経学の真骨頂を表す名言ばかりである。

・臨床診断に用いられる診察手技の利点:検査室の手間や患者への侵襲なしにどこでも容易に行えるテストである

・診察の必需品:どこにでも転がっている道具(ハンマー,痛覚検査用のピンかルーレット)があれば十分で,医師の五感(訓練された観察力)と第六感(研ぎ澄まされた常識)だけが必要である。[診察用具がないことをぼやく医師,診察力を養うことよりも診察用具にこだわる医師を諭す言葉]

・悲しむべき風潮:臨床的診断を下すのに,簡単な診察で得られる所見よりも,無闇やたらに機械や新技術を用いた検査を行い,検査結果を重視する医師が増えていること。

・医師として避けるべき行為:患者や家族からキチンと話を聴くことをせずに,患者を検査室に送ること。

・嘆かわしいこと:自分の眼,耳,手指を働かせる匠の技は廃れて,馬鹿がやっても大丈夫という規格化された方法を求める医師があまりに多いこと。

・新技術による検査の意味と価値:血液や画像を用いた新しい検査の重要性や将来性はいくら高く評価しても評価しすぎることはない。問題は,これらの検査を用いるか否かではなくて,いかなる場合に用いるかである。

<検査を行う前に考慮すべき十カ条>

1.実施までに時間がかかる。そのために貴重な時間をロスすることにならないか?

2.高額で患者の負担が増えないか?

3.患者に苦痛や副作用,後遺症を起こさないか?

4.検査機器は円滑に作動しているか?

5.検査結果の判定が難しいときはどうするか?

6.無意味な異常値:異常な検査結果が臨床的に意味あるものかどうか?

7.興味深い検査値であっても,臨床診断には無関係なものがある。

8.検査所見の判定には,信頼できる診察所見と照合させることが不可欠である。

9.的確な神経学的診察所見があってこそ,検査値の意味が明確になり有用となる。

10.検査所見と臨床的診察所見が合致しない場合には,よく精査したうえで診察所見を優先させるほうが適切である。

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marugametorao について

神経内科専門医 neurologist
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