誤診の背景要因について-2014 年度 基本的臨床能力評価試験

誤診の背景要因について-2014 年度 基本的臨床能力評価試験

誤診(診断エラー、診断遅延とも呼ばれる)に関する背景要因の文献を検索していると、現在の医学生では、臨床推論の分野で、その教育が行われていることが判明した。2014年度基本的臨床能力評価試験の解説がインターネット上で公開されている。誤診を来す要因として、無過失エラー、システムエラー、認知エラーがあり。どのエラーが多いのかが試験問題として出ている。バイアスについての設問もあり、大学を離れて、15年もたつと、知らないことが多い。

http://jamep.or.jp/wp-content/uploads/2015/02/2014_kaisetsuf.pdf

2014 年度 基本的臨床能力評価試験

解 説

特定非営利活動法人 日本医療教育プログラム推進機構

「症候学・臨床推論」

【問題81】

診断ミスとは誤診や診断の遅れにつながる診断プロセスの過ちのことである。最近の臨床研究によると、診断ミスが起こっている割合はどれぐらいと言われているか。

(1) 2-5%

(2) 10-20%

(3) 20-30%

(4) 30%以上

正解 (2)

【解説】

診断エラーの頻度

診断エラーの多くは患者への有害事象には至っていないが、これまでの調査によると、約

10~15%の頻度で診断エラーがおきている。これらの調査は欧米の調査であるが、日本でも同様な(あるいはさらに高頻度な)状況であると考えられている。

【問題82】

認知エラーとは、医師が考え、診断や治療方針を決めるときに起こるエラーである。認知エラーとシステムエラーについて正しいものはどれか。

(1) システムエラーは認知エラーよりも少なくとも2 倍は多い

(2) システムエラーと認知エラーは同じ程度の頻度である

(3) 認知エラーはシステムエラーよりも少なくとも2 倍は多い

正解 (2)

【解説】

システムエラーと認知エラーの相対的頻度

全ての医療関連エラーのうち、システムエラーと認知エラーの相対的な頻度は約半々程度である。以前の医療安全学の分野ではシステムエラーを対象とした研究と対策が中心に行われていた。しかしながら、医師の認知エラーの重要性が最近10 年で注目されるようになり、国際学会なども設立されている(Society to Improve Diagnosis in Medicine)。

【問題83】

高血圧症、脂質異常症、肥満、糖尿病の併存症がある70 才女性が寝汗、発熱、重度疲労感、全身の脱力と筋硬直(特に左肩)を訴え、リウマチ専門医を受診した。血沈一時間値は60 mm であった。リウマチ専門医はリウマチ性多発筋痛症と診断し、一日15 mg のプレドニゾロンを処方した。その後2 週間で症状はほとんど改善せず、さらに息切れも訴え、入院となった。診察上、両肺底にcrackles、そしてIII/VI の収縮期雑音が認められた。血液培養より黄色ブドウ球菌が検出され、心エコーで僧房弁に疣贅が認められた。この初期の診断の見逃しに、最も寄与したものはどれか。

(1) かかりつけ医が間違えた専門の医師に紹介してしまったため

(2) リウマチ医が初期診断において、反証となる症候を探さなかったため

(3) 初期診断時、血液培養が陰性で、心雑音がなく、心内膜炎の診断基準をみたさなかったため

(4) 初期症状が出る6 週間前に歯医者に通っていたことを、この患者が医師に話さなかったため

正解 (2)

【解説】

アベイラビリティーバイアス(Availability Bias)

リウマチ医は、普段よく見るPMR を直ちに想起した。これはアベイラビリティーバイアスである。PMR の診断のときには、PMR の重要な鑑別診断である心内膜炎などの可能性も考えるべきであり、心雑音や末梢サインなどの所見を探すべきであった。

【問題84】

60 歳男性が胸痛で救急室に来院。この男性は非喫煙者で、毎日30 分の運動をしても運動中の胸痛や息切れなどはなかった。悪心、嘔吐、発汗、息切れはなかった。血圧110/60 mmHg、脈拍60 回/分で、心臓と肺の身体所見も異常なしで、心筋逸脱酵素、胸部単純X 線写真、心電図も異常なしであった。医師は、この胸痛は運動に起因する筋肉痛によるものであろうと患者に伝え、帰宅させた。翌朝、この患者は急性心筋梗塞で救急室に運ばれてきた。

この診断の見逃しに、最も寄与したものはどれか。

(1) 急性心筋梗塞は健康な人にも起こりうるので、時には見過ごされることがあるため

(2) 検査室で行われた心筋逸脱酵素分析機器の管理が徹底していなかったため

(3) この患者をみた医師が冠動脈疾患の検査前確率を考えなかったため

(4) この患者の症状はコモンディジーズの非典型症状だったため

正解 (3)

【解説】

ベースレート・ネグレクト(Base-Rate Neglect)

心筋梗塞は頻度の多い疾患であり、検査前確率(ベースレート)が高い。来院時初回の検査が陰性であっても否定できない。検査前確率(ベースレート)を無視してはならない。

【問題85】

糖尿病と病的肥満(200 kg)の併存症がある45 歳の女性が腹部全体に及ぶ腹痛と発熱を訴え、入院となった。血圧140/90 mmHg、脈拍90 回/分、呼吸数16 回/分、体温38.2 °C。腹部皮膚に紅斑性発疹が見られ、腹部全体に圧痛が認められた。WBC 14,000 /μL で、その他の検査結果は正常であった。この患者は蜂窩織炎とカンジダ症の診断と治療を受けた。入院3 日目に腹痛が悪化し、WBC は20,000 /μL に増加した。手術室に搬送され、試験開腹術を受けた結果、穿孔性憩室炎が見つかった。この診断の見逃しに、最も寄与したものはどれか。

(1) カンジダ症と蜂窩織炎の見分けが困難であるため

(2) 憩室疾患の既往歴がなかったため

(3) この患者の体型が鑑別診断に影響したため

(4) 入院時に血清乳酸値が調べられなかったため

正解 (3)

【解説】

情動バイアス(Affective Bias)

高度肥満の患者に対する不十分な診察による診断エラーは情動バイアスが関連しているといわれている。一般的に、アルコール依存症、精神疾患、薬物中毒などの患者の診断では情動バイアスで診察が不十分となることが知られている。

【問題86】

40 歳女性が、いつもの偏頭痛とは違う痛みの前頭部痛を訴え、救急に来院。MRI とMRA の結果、2 つの小さな動脈瘤が見つかり、脳神経外科病棟に入院し、開頭による動脈瘤クリップ手術が施行された。しかし術後、頭痛はむしろ増悪し、会話困難となるほど痛がった。その後、この患者は偏頭痛のため最近数週間、大量のアセトアミノフェンとイブプロフェンを服用していたことが判明した。鎮痛剤長期大量使用に伴う反跳性頭痛と診断され、薬の漸減によって症状が改善した。

次の選択肢のうち、手術を施行するという決断に最も影響したものはどれか。

(1) 神経内科ではなく、脳神経外科にこの患者を入院させた救命救急医の判断

(2) 間違えた画像診断方法を使用したこと(血管造影法のほうがMRI よりも動脈瘤の大きさを正確に評価できる)

(3) 頭痛を完治させるための治療をしたいという医師の熱意

(4) 患者とその家族からの動脈瘤を治してほしいという圧力を医師が感じたこと

正解 (3)

【解説】

行為バイアス(Commission Bias)

手術という行為で、頭痛を早く治療してあげたいという思いが強かったものであり、行為バイアスのケースである。はやく治癒させたいという欲求の強い医師や患者の思いが、このバイアスを生じさせる。

【問題87】

50 歳女性が胸痛、息切れ、倦怠感を訴え、混雑した救急外来に来院し、胸部単純X 線検査を受けた。放射線科医は右下肺野に肺炎を確認したが、第三肋骨における骨病変を見逃した。この患者は抗菌薬を処方され帰宅し、かかりつけ医に行くように勧められた。数ヵ月後、この患者に転移性乳癌が見つかった。次のうち、このミスについて正しく説明しているものはどれか。

(1) この放射線科医は時間的制約と過労があり、これらがエラーにつながった(人為的エラー)

(2) かかりつけ医にかかるように救急医がきちんとコーディネートすべきだった(システムエラー)

(3) 救急医は病歴聴取と診察時に適切なReview of Systems を行わなかった(診断エラー)

(4) 誰の過失でもない(骨病変は胸部単純X 線写真ではある一定の確率で発見困難であり、防ぐことのできないエラーである)

正解 (1)

【解説】

ヒューマンファクターによるエラー

多忙な救急現場ではヒューマンファクターによるエラーが起こりやすい。放射線科専門医などのエキスパートであっても、このような時間的プレッシャーがあると、救急現場での読影ミスの原因となる。

【問題88】

糖尿病の併存がある58 歳女性が、息切れと上気道炎症状を訴え、救急外来に来院した。トリアージナースがバイタルサインをとり、医師に「またインフルエンザの患者が来ました」と伝えた。この患者は毎日たくさんの水を飲み、症状を改善するためにアスピリンを服用していると医師に言った。身体所見上、低酸素状態ではなく、肺には異常はなかったが、過換気状態(呼吸数30回/分)であった。検査所見は、重炭酸塩(HCO3-)が18 mEq/L ということ以外は異常なし。この患者はウイルス性肺炎と推測され、内科病棟に入院した。この後、この患者はアスピリン中毒であることが判明。診断ミスをした最も大きな原因として考えられるものは次のうちどれか。

(1) 救急で測定された血清重炭酸イオン値は不正確であることが多く、医師はこの値が不正確であると仮定したため

(2) サリチル酸塩中毒についての十分な知識がこの医師にはなかったため

(3) 一般的な症候群の診断名を付けるために、この季節によく見られる病気を自身の経験を基に診断したため

(4) サリチル酸塩中毒とウイルス性肺炎は症状が似ており、しばしば起こる診断ミスは避けられないため

正解 (3)

【解説】

アベイラビリティーバイアス(Availability Bias)

流行期でよく見るコモンなインフルエンザなどの病気をただちに想起したケースであり、これもアベイラビリティーバイアスとよばれる。ナースのアセスメントエラーも関連している(これはオーバーコンフィデンスバイアスOverconfidence Bias とよばれる)。

【問題89】

痛風の既往歴がある74 歳男性が発熱と膝関節腫脹を主訴に入院した。関節穿刺の結果、滑液中に尿酸結晶とグラム陽性双球菌が認められた。抗菌薬の静脈内投与が開始された。この後、患者の誤嚥が目撃され、呼吸停止になり気管内挿管され、内科ICU に移された。内科ICU の医療チームはリウマチ専門医に再度、関節穿刺を依頼した。前回の滑液からは未だにどの菌も培養で陽性ではなかった。このリウマチ専門医とフェローはナースステーションにある患者のカルテを見直し、関節穿刺のために患者の部屋へ向かったが、間違えた部屋に入り、違う患者の関節に穿刺をしてしまった。

以下のうち、どのタイプのエラーが起こったか。

(1) 二度目の関節穿刺は必要ではなかった。一度目の滑液の最終的な培養結果が出ていないうちに再度穿刺してしまったからである(判断エラー)

(2) 検査技師がグラム染色結果を間違えて解釈してしまった(技術的エラー)

(3) この患者の引き継ぎをしたフェローは、この患者がどの部屋にいるのか正確に伝えなければならなかった(引継エラー)

(4) 関節穿刺をする前に患者確認を怠った(システムエラー)

(5) このリウマチ専門医とフェローは一度目の関節穿刺のマークを探すために関節を診察しなかった(手技エラー)

正解 (4)

【解説】

システムエラー(Systems Error)

手技を行う前に、一度みなで確認作業を行う(タイムアウトtime-out という)を施行しなかったためと考えられる。患者取り違えなどを防ぐために、手術や手技の施行前にはかならず、タイムアウトした確認作業を行うべきである。

【問題90】

金曜日で違う科に移るレジデントが、患者の引き継ぎのため、新しく交代するレジデントに電話をした。患者の名前はジョーンズさん、脳梗塞の既往歴がある75 歳女性。この患者は今週の始めに精神錯乱のため入院。入院時、せん妄、発熱、腹痛が見られ、尿検査ではほとんど菌は見られなかったが、各視野20~50(高倍率)の白血球が認められた。患者の意識障害は尿路感染によるものであり、土曜日までに熱がなかったら退院の予定だと伝えた。患者は土曜日まで熱はなかったが、意識障害は遷延していた。患者の家族には尿路感染は完治したと伝えられ、患者は退院したが、一週間後、意識障害が悪化したため患者は再び家族に連れられ救急外来を受診した。腰椎穿刺の結果、脳炎の診断となった。この診断の遅れに、最も寄与したものはどれか

(1) 最初に患者を見たレジデントチームは、感染尿と汚染尿の違いがわからなかったため

(2) このレジデントの引き継ぎの書類には、少数の菌しかいなかったという尿検査の結果が記載されていなかったため

(3) この患者の引き継ぎをしたレジデントは、その他の考えられる診断名と治療法を次のレジデントに伝えなかったため

(4) 引き継いだレジデントは、最初のレジデントから聞いた患者症状と一致しない実際の症状より、適切な診断と治療を見出すことができなかったため

正解 (4)

【解説】

アンカーリングバイアス(Anchoring Bias)

患者を引き継いだ入院担当チームは、救急室で患者を担当したメンバーの診断を信じて、意識障害を来す他の疾患の可能性を考えず適切なワークアップを行わなかった。アンカーリングバイアスのケースである。

【問題91】

迅速かつ効率的で正確な診断を下すことのできることが多い診断技術は、次のうち何と呼ばれて

いるか。

(1) 臨床予測ルール

(2) ベイズ解析

(3) アンカーリング

(4) ヒューリスティックス

正解 (4)

【解説】

ヒューリスティックス(Heuristics)

迅速、効率的でかつ正確な判断ができる判断ルールをヒューリスティックスという。

これらのうち、汎用的で重要なものをクリニカル・パールという。

【問題92】

診断の見逃しにおいて、一般的な理由は次のうちどれか。(2005 年に発表されたGraber による診断エラーについての論文)

(1) 簡単に思い出せ、最近見た診断を、よりふさわしいと考えるから

(2) めずらしい診断を追い求め、「コモンディジーズ」を忘れてしまうから

(3) 典型的な症状に固執し、非定型的な症状を見過ごしてしまうから

(4) 適切なタイミングで最適な専門医の助言を求めることに失敗するから

(5) 適切な検査がすべて完了する前に診断を下してしまうから

正解 (5)

【解説】

早期閉鎖(Premature Closure)

診断エラーで最も多い理由は、診断の早期閉鎖である。これは、さまざまなバイアスによって推論が不正確となり、適切な診断ワークアップを行わずに早期に誤った診断を下してしまうことである。

【問題93】

分析的診断法ではなく、直観的診断法を用いることと、関係がないのは次のうちどれか。

(1) 初学者(医学生など)

(2) 疲労

(3) 時間的制約

(4) 臨床における熟錬

(5) 感情的な状態

正解 (1)

【解説】

二重プロセスモデル(Dual Process Model)

直観的アプローチは、エキスパートが迅速で正確な診断を行うときに利用する方法ではああるが、非エキスパートが過疲労状態や感情的状態、時間的プレッシャーに襲われたときに用いると、認知バイアスに陥りエラーの原因ともなる。一方、分析的アプローチは、初心者が用いる方法であり、時間がかかる。

参考文献:

  1. https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02965_02

直感的診断の可能性

DEM International Conferenceに参加して

2. http://www.jround.co.uk/error/reading/crosskerry1.pdfhttp://scholar.google.co.jp/scholar?  The importance of cognitive errors in diagnosis and strategies to minimize them

hl=ja&q=The+importance+of+cognitive+errors+in+diagnosis+and+strategies+to+minimize+them.&btnG=&lr=

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