黒岩義之先生の優れた総説である「ヒトパピローマウイルスワクチン接種後神経障害:その病態仮説」を紹介する。興味あるかたは、下記のリンクから、PDFを購入するか、amazonで購入してください。このブログは休眠状態であったが、今回のみ、例外的にオープンした。
http://www.kahyo.com/item/S201611-855
神経内科 第85巻第5号(2016年11月発行)
- REVIEW
ヒトパピローマウイルスワクチン接種後の神経障害:その病態仮説
帝京大学附属溝口病院神経内科・脳卒中センター 黒岩義之ほか…567
線維筋痛症との鑑別は?
「HPVワクチン接種後神経障害」の患者は静かで非攻撃的で、自分から多くを語らず、顔をしかめるなどの表情表現を表さないのに対して、線維筋痛症の患者は多弁的、攻撃的、易怒的で、全身で痛みを身体表現するところが大きく異なる。前者で高頻度にみられる「サングラス徴候」は後者では非常に稀である。
「HPVワクチン接種後神経障害」のプライマリーな病態は視床下部機能の障害であり、線維筋痛症のプライマリーな病態は疼痛・情動関連機能の障害と考えられる。
視床下部病変による症候学
- 自律神経症候、2.内分泌症候、3.アレルギー症候、4.認知情動症候、5.意識障害
- 6.感覚症候、7.運動症候
「HPVワクチン接種後神経障害」は脳室周囲器官の障害から始まる。
解剖学的診断:視床下部・辺縁系ネットワークの神経内分泌攪乱
病因論的診断:HPVワクチン接種後に生じた血管内皮・血液脳関門の慢性障害
視床下部を首座に置く脳室周囲器官、別名「脳の窓」は4大ドメインである自律神経・内分泌・炎症系、運動神経系、感覚神経系、認知情動神経系と密接な神経ネットワークを構成している。
病態生理:1.第三脳室周囲の脳室周囲器官、別名「脳の窓」における血管内皮細胞とグリア・センサー細胞ネットワークの障害、2.視床下部・辺縁系ネットワークのシナプス・受容体機能障害
症候の流れ
4大ドメインからなる慢性進行性の神経内分泌攪乱症候
ワクチン接種から30日未満に発症ピークを示した自律神経症候、睡眠・内分泌・炎症症候)、情動症候、痛みは「脳の窓(脳室周囲器官)」に近い「視床下部」の障害によると解釈される。
ワクチン接種から30日以上、6カ月未満に発症ピークを示した認知症候、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚症候は「脳の窓」から少し遠い「視床下部と辺縁系ネットワーク」の障害によると解釈される。
ワクチン接種から6カ月以上、1年未満に発症ピークを示した運動・ロコモーション症候は「脳の窓」からさらに遠い「視床下部と前頭側頭運動野のネットワーク」の障害によると解釈される。
脳室周囲器官の7つの一般的特徴
- 脳脊髄液・血液関門の役割を果たし、脳脊髄圧のセンサー。2.血液脳関門によって保護されていない。3.血管が豊富な「神経血管単位」である。4.化学受容器引金帯であり、血液を介して化学物質の暴露されている。5.神経炎症の舞台である。モノアミン分泌細胞、自然免疫細胞(ミクログリアやマスト細胞)が豊富に存在する。6.代謝性疾患の標的となる(例:Wernicke脳症)。7.液性自己免疫疾患の標的となる(例:視神経脊髄炎)。
PS: 脳室周囲器官の特徴については、初めて学びました。浅学菲才ですが、探究心だけは旺盛です。
http://www.saltscience.or.jp/general_research/2011/201137.pdf
脳室周囲器官における血管-グリアユニット
参考資料2 日本医師会・日本医学会合同シンポジウム
HPV ワクチン関連神経免疫症候群(HANS)の病態と発症要因の解明について. 西岡久寿樹
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平山先生、
以前抗nmda受容体脳炎を扱ったノンフィクション「脳に棲む魔物」でお世話になりました澁谷正子です。
その節は、ありがとうございました。
このたび、「脳に棲む魔物」が映画化されることになり、プレスリリースに寄稿することになりました。
拙訳が出版された三年前とくらべ、病気を取り巻く状況に何か変わりはありましたか? 患者数の増加、治療法の改善など、教えていただけましたら助かります。
よろしくお願いします。
澁谷正子