レナードの朝 ,ロバート・デ・ニーロ, オリバー・サックス.


      レナードの朝

 以前に大学に勤務していたことがあった。そのときの日記である。ロバート・デ・ニーロ主演の『レナードの朝』は、東京での研究会の合間に見たことがあり、感動して涙がとまらなかった。医療関係者とくに神経内科を志望する医学生には必ず見てもらいたい作品である。

薬理学教室の新しい教育の試みとして、Clinico-Pharmacological Conferenceを行いたいとのことで、僕はパーキンソン病の患者のカルテと参考書を4年生の学生に貸してあげた。3人の学生がやってきたが、2人は男性、1人は女性であった。『レナードの朝』という映画が先日、NHKで放映されていたが、見ましたかと質問したら、2人の学生は、はいと返事した。さすがに医学生だなと思ったが、最近、早川書房から出た単行本も紹介しておいた。脳炎後遺症によるパーキンソン症候群の患者が、当時奇跡の薬と言われたl-dopaを投与して、めざめていく実話であるが、映画は脚色されている。原題はAwakeningsであり、めざめであるが、複数形が使用してある。レナードを含む20例の患者の症例呈示がなされている。映画では一人だけ本物の患者が出演していたそうだ。

 この本の付録7で、『レナードの朝、』の演劇と映画について書かれている。

「眠りに落ち、動けない石のようになってしまった患者が、それから何十年も経って目覚めると、世界はかって自分が暮らしていた世界と同じではなかった、という本書の主題には、読者の想像力を刺激する力がある。これは夢や悪夢、伝説が生まれる土壌であり、しかも実際に起こったことなのである」

1973年に本書が最初に英国で出版され反響が大きく、実際の患者を見たいということで、患者の許可を得てドキュメンタリー・フィルムが作られた。その後、映画化の話が実現し、1989年にロバート・デ・ニーロがレナードの役に決定した。オリバー・サックス医師は彼のことを次のように述べている。

「自分の役を理解することへの情熱、またそのために広く深く下調べする情熱は、俳優の間では伝説となっているが、私はそれを自分の目で確かめることになった」

彼はドキュメンタリー・フィルムを何度も見たり、実際の脳炎後遺症患者を訪問し、一人の人間として彼らに接した。

「芸術家として、俳優として、彼らを適切に表現するとの決意を持って彼らに接した。彼らになるために。患者たちもそのことを完全に理解し、これまで誰からも受けたことのないような視線を向けられて、関心を抱き、心を動かされた。そして不思議なことに、最高の科学的調査をされているような気持ちにさせられたのだった」

「私は撮影が始まる前に、衣装部屋でロバートと話した。そのとき、彼の右足が内側に向けて曲がっているのに気づいた。それはジストニーによる屈曲そのもので(後略)」

 彼は無意識にその姿位をとっていたのだ。彼はレナードに心も体もなりきっていた。この映画を見て驚いたのは、患者を演じる俳優が示す神経症状が本物に思えたからだ。

「私が俳優に神経学について教えるのではなく、俳優たちから教わるようになり始めたのである」

http://www.oliversacks.com/ (オリバー・サックスの公式HP)

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