膵臓がんの早期診断マーカーが開発された!元相撲力士にお勧め!

膵臓がんの早期診断マーカーが開発された!元相撲力士にお勧め!

人間ドック健診認定医・専門医研修会2016年

 

「アミノインデックス技術の臨床応用~健康診断の近未来~」

「膵癌早期診断のための戦略」

前者がアミノインデックス技術の紹介で、後者が去年末からSRLで測定可能となったアミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)の紹介であった。

この講演の翌日に、千代の富士(歴代の横綱の中で一番好きな力士であったが、早死にされ、非常に残念である)が膵臓がんでなくなったというタイムリーな講演内容であった。私の叔父が膵臓がんで亡くなり、去年は外来受け持ち患者が膵臓がんで亡くなったので、他人事ではない。

膵臓がんのサイズが1cm以内に発見される場合は5年生存率が80%、10~20mmでは50%であり、全体としては、5年生存率が6.8%と、他の癌と比較して著しく低い。

早期の膵臓がんは自覚症状がほとんどない。適切な検診システムが無いため、医療機関への受診はがんが進行(=症状が出現)してからの例がほとんどである(74.5%)。

膵臓がんを、早期に画像で見つけるのは、たやすいことではない。膵臓の特徴は、奥まった位置にある、他臓器や血管に接している。

2cm未満の膵臓がんで、膵臓がんマーカーであるCA19-9は46.8%では正常範囲である。

味の素株式会社が下記の技術を開発した。膵臓がんの早期発見に有用であるが、ランクCに入る被験者は、86人に1人が膵臓がんである確率であり、膵臓がんのリスクが11.6となる。

血中アミノ酸濃度バランスを指標とした膵臓がんの早期発見技術を開発

http://www.ajinomoto.com/jp/presscenter/press/detail/2014_10_07.html

Plasma Free Amino Acid Profiling of Five Types of Cancer Patients and Its Application for Early Detection

http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0024143

新規実施項目のお知らせ(SRL)

https://www.srl.info/srlinfo/srlnews/2015/pdf/2015-28.pdf

  • 男性 AICS(5種) ●女性 AICS(6種)

「アミノインデックス技術」を用いたがんリスクスクリーニング検査に、新たな解析対象として「膵臓がん」を追加いたしました。

健常者における血液中のアミノ酸濃度は、それぞれ、一定に保たれるようにコントロールされていますが、がん患者では一定に保たれている血液中のアミノ酸濃度のバランスが変化することが報告されています。

AICS®(エーアイシーエス)は、血液中のアミノ酸濃度を測定し、健常人とがん患者のアミノ酸濃度のバランスの違いを統計的に解析することで、現在がんに罹患しているリスクを評価する検査です。

このたび、新たな解析対象に早期発見が課題とされる「膵臓がん」を加え、より広いがん種を一度に検査できるようになりました。

  • 各AICS®の解析対象となるがん種

男性AICS(5種):胃がん、肺がん、大腸がん、膵臓がん、前立腺がん

女性AICS(6種):胃がん、肺がん、大腸がん、膵

この検査だけで、24000~25000円もするので非常に高いが、下記のリスクを有する対象者にはお勧めである。とくに中年以降の元相撲力士は今後、必須の検査項目になるであろう。

A Novel Multivariate Index for Pancreatic Cancer Detection Based On the Plasma Free Amino Acid Profile

http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0132223

膵臓がんの危険因子

http://www.jsge.or.jp/citizen/2010/kyusyu.html

2.生活習慣と膵がん

A.膵がん発症と環境要因

1)家族歴

膵がんの家族歴がある率は4.8%、家族内発がんは6.0%。

遺伝性膵炎、家族性大腸腺腫ポリポージスなど(遺伝性膵がん症候群)。

2)喫煙

日本では約11万人を対象とし、平均8.1年追跡調査をした研究(The JACC Study)で、非喫煙者と比較して喫煙者の膵がん発症の相対危険度は男性で1.6倍、女性で1.7倍。膵がんでは禁煙により膵がんの発症危険率が低下。膵がんの発症危険率が男性では禁煙後1~9年、10~19年、20年以上でそれぞれ、1.41、0.85、0.84であり、10年以上禁煙すれば危険率は低下。

3)飲酒

酒を飲むと顔が赤くなりやすい人が、日常的に飲酒しながら喫煙すると、膵がんの発症相対危険度が、酒は飲むが非喫煙者の約10倍になる。アルコールを体内で分解する能力は主に、ALDH2というアルコールを分解する酵素の型で決まります。膵がんが発症した104人の調査で、酒は飲めるが分解する力が弱い型の人が55人もいました。また、その55人のうち日常的に飲酒しながら喫煙していた人は19人でした。つまり、酒は弱いが飲酒習慣があり喫煙する人は、膵がんの危険度は10倍でした。一方、酒に強い酵素を持つ人でも、飲酒と喫煙両方の習慣があると危険度は3倍でした。

4)コーヒー

日本でのThe JACC Studyでは、1日3杯未満のコーヒーは膵がん発症危険度を低下させる傾向を認めています。コーヒー飲用者は喫煙者が多く、喫煙が膵がんリスクを増加させるため、見かけ上コーヒーが膵がんリスクを増加させるという誤った関連を観察してしまうため、喫煙者と非喫煙者に分けても検討されていますが同様の結果でした。しかし、1日4杯以上コーヒーを飲む人では膵がん死亡リスクが増加し、特に男性では危険度が3.2倍と報告されています。

5)肥満・運動

肥満は膵がんの発症危険率を増加させると報告されています。その機序は、膵がんのリスクファクターである糖尿病の基礎病態である耐糖能障害や高インスリン血症と関連すること、肥満者では脂質過酸化による膵でのDNA損傷が増加することが挙げられています。日本での研究では、青年期の男性でBody mass index (BMI*:肥満指数)が30以上の肥満では、肥満が無い男性に比べ危険率が3.5 倍増加しており、青年期の肥満は日本人の男性での膵がん死亡リスクに強く関連しています。一方、女性ではBMIが高い群は正常群に比べ60%危険率が増加すると報告されています。欧米の報告では、BMI 30以上と25以下と膵がん発症危険率を比較検討すると、前者で1.81倍増加したとの報告があります。

*BMIの算出方法 BMI = 体重[kg] ÷ 身長[m] ÷ 身長[m]

6)食事  生活習慣の中で食事要因と膵がん発症リスクの関連は強いと考えられていますが、疫学的調査の結果は一致せず、食事の影響は不明です。しかし、肉類(特に薫製、加工肉)・脂肪の過剰摂取はリスクを上昇させ、野菜・果物(ビタミンC・食物繊維)の摂取は低下させ、予防的に働くと考えられています。その他、コレステロールの過剰摂取は膵がん発症リスクを増加させると報告されています。

B.膵がん発症と疾患要因

慢性膵炎、糖尿病、膵嚢胞性腫瘍、遺伝性膵炎を合併する人には膵がんの発生が多いと報告されています。また、ヘリコバクターピロリ感染でもリスクの増加が報告されています。ここでは、膵がん患者の既往症で頻度が高い糖尿病と慢性膵炎に注目します。

1)糖尿病

糖尿病の経過観察中に血糖コントロール不良になった症例や高齢で初めて糖尿病を発症した人には膵がんが含まれることは良く知られています。また、膵がんでは糖尿病が高頻度に発症します。膵がんの既往歴では糖尿病が25.9%と高頻度であり、糖尿病歴を有する男性では膵がんの相対発症リスクが2.1倍、女性では1.5倍であったと報告されています。また、米国では膵がんの糖尿病合併率が60~80%と報告されています。さらに、多くの報告で糖尿病が膵がん発症リスクを約2倍増加させることが示されています。一方、糖尿病罹患期間と発症リスクを検討した報告では、10年以上の糖尿病歴がある人は膵がんの発症リスクが50%増加しますが、膵がん発症の前1年以内の糖尿病発症も30%認められています。このことは、糖尿病は膵がんの合併症でもありますが、膵がんの危険因子であることを明確にしています。

2)慢性膵炎

厚生労働省難治性膵疾患調査班で施行された慢性膵炎患者の予後および死因に関する調査において、慢性膵炎患者の死因の43.1%ががんであり、その中で最も多いのが膵がんの21.7%でした。慢性膵炎患者の標準化死亡比(SMR)は1.56、悪性新生物によるSMRは2.01と一般集団よりも有意に高率でした。特に膵がんによるSMRは最も高率で7.33であった(表1)。男性が8.07、女性が4.36であり、男性で高率であった。これより、慢性膵炎患者の膵がんによる死亡比は期待値の7倍程度と考えられ、慢性膵炎は膵がん発症リスクが最も高い疾患といえる。ただし、慢性膵炎の成因はアルコール性が多く、さらに喫煙の生活習慣の患者が多いこと、また膵性糖尿病の合併という疾患要因も加わっており、慢性膵炎患者の膵がん発症リスクが高率であると考えられる。

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誤診の背景要因について-2014 年度 基本的臨床能力評価試験

誤診の背景要因について-2014 年度 基本的臨床能力評価試験

誤診(診断エラー、診断遅延とも呼ばれる)に関する背景要因の文献を検索していると、現在の医学生では、臨床推論の分野で、その教育が行われていることが判明した。2014年度基本的臨床能力評価試験の解説がインターネット上で公開されている。誤診を来す要因として、無過失エラー、システムエラー、認知エラーがあり。どのエラーが多いのかが試験問題として出ている。バイアスについての設問もあり、大学を離れて、15年もたつと、知らないことが多い。

http://jamep.or.jp/wp-content/uploads/2015/02/2014_kaisetsuf.pdf

2014 年度 基本的臨床能力評価試験

解 説

特定非営利活動法人 日本医療教育プログラム推進機構

「症候学・臨床推論」

【問題81】

診断ミスとは誤診や診断の遅れにつながる診断プロセスの過ちのことである。最近の臨床研究によると、診断ミスが起こっている割合はどれぐらいと言われているか。

(1) 2-5%

(2) 10-20%

(3) 20-30%

(4) 30%以上

正解 (2)

【解説】

診断エラーの頻度

診断エラーの多くは患者への有害事象には至っていないが、これまでの調査によると、約

10~15%の頻度で診断エラーがおきている。これらの調査は欧米の調査であるが、日本でも同様な(あるいはさらに高頻度な)状況であると考えられている。

【問題82】

認知エラーとは、医師が考え、診断や治療方針を決めるときに起こるエラーである。認知エラーとシステムエラーについて正しいものはどれか。

(1) システムエラーは認知エラーよりも少なくとも2 倍は多い

(2) システムエラーと認知エラーは同じ程度の頻度である

(3) 認知エラーはシステムエラーよりも少なくとも2 倍は多い

正解 (2)

【解説】

システムエラーと認知エラーの相対的頻度

全ての医療関連エラーのうち、システムエラーと認知エラーの相対的な頻度は約半々程度である。以前の医療安全学の分野ではシステムエラーを対象とした研究と対策が中心に行われていた。しかしながら、医師の認知エラーの重要性が最近10 年で注目されるようになり、国際学会なども設立されている(Society to Improve Diagnosis in Medicine)。

【問題83】

高血圧症、脂質異常症、肥満、糖尿病の併存症がある70 才女性が寝汗、発熱、重度疲労感、全身の脱力と筋硬直(特に左肩)を訴え、リウマチ専門医を受診した。血沈一時間値は60 mm であった。リウマチ専門医はリウマチ性多発筋痛症と診断し、一日15 mg のプレドニゾロンを処方した。その後2 週間で症状はほとんど改善せず、さらに息切れも訴え、入院となった。診察上、両肺底にcrackles、そしてIII/VI の収縮期雑音が認められた。血液培養より黄色ブドウ球菌が検出され、心エコーで僧房弁に疣贅が認められた。この初期の診断の見逃しに、最も寄与したものはどれか。

(1) かかりつけ医が間違えた専門の医師に紹介してしまったため

(2) リウマチ医が初期診断において、反証となる症候を探さなかったため

(3) 初期診断時、血液培養が陰性で、心雑音がなく、心内膜炎の診断基準をみたさなかったため

(4) 初期症状が出る6 週間前に歯医者に通っていたことを、この患者が医師に話さなかったため

正解 (2)

【解説】

アベイラビリティーバイアス(Availability Bias)

リウマチ医は、普段よく見るPMR を直ちに想起した。これはアベイラビリティーバイアスである。PMR の診断のときには、PMR の重要な鑑別診断である心内膜炎などの可能性も考えるべきであり、心雑音や末梢サインなどの所見を探すべきであった。

【問題84】

60 歳男性が胸痛で救急室に来院。この男性は非喫煙者で、毎日30 分の運動をしても運動中の胸痛や息切れなどはなかった。悪心、嘔吐、発汗、息切れはなかった。血圧110/60 mmHg、脈拍60 回/分で、心臓と肺の身体所見も異常なしで、心筋逸脱酵素、胸部単純X 線写真、心電図も異常なしであった。医師は、この胸痛は運動に起因する筋肉痛によるものであろうと患者に伝え、帰宅させた。翌朝、この患者は急性心筋梗塞で救急室に運ばれてきた。

この診断の見逃しに、最も寄与したものはどれか。

(1) 急性心筋梗塞は健康な人にも起こりうるので、時には見過ごされることがあるため

(2) 検査室で行われた心筋逸脱酵素分析機器の管理が徹底していなかったため

(3) この患者をみた医師が冠動脈疾患の検査前確率を考えなかったため

(4) この患者の症状はコモンディジーズの非典型症状だったため

正解 (3)

【解説】

ベースレート・ネグレクト(Base-Rate Neglect)

心筋梗塞は頻度の多い疾患であり、検査前確率(ベースレート)が高い。来院時初回の検査が陰性であっても否定できない。検査前確率(ベースレート)を無視してはならない。

【問題85】

糖尿病と病的肥満(200 kg)の併存症がある45 歳の女性が腹部全体に及ぶ腹痛と発熱を訴え、入院となった。血圧140/90 mmHg、脈拍90 回/分、呼吸数16 回/分、体温38.2 °C。腹部皮膚に紅斑性発疹が見られ、腹部全体に圧痛が認められた。WBC 14,000 /μL で、その他の検査結果は正常であった。この患者は蜂窩織炎とカンジダ症の診断と治療を受けた。入院3 日目に腹痛が悪化し、WBC は20,000 /μL に増加した。手術室に搬送され、試験開腹術を受けた結果、穿孔性憩室炎が見つかった。この診断の見逃しに、最も寄与したものはどれか。

(1) カンジダ症と蜂窩織炎の見分けが困難であるため

(2) 憩室疾患の既往歴がなかったため

(3) この患者の体型が鑑別診断に影響したため

(4) 入院時に血清乳酸値が調べられなかったため

正解 (3)

【解説】

情動バイアス(Affective Bias)

高度肥満の患者に対する不十分な診察による診断エラーは情動バイアスが関連しているといわれている。一般的に、アルコール依存症、精神疾患、薬物中毒などの患者の診断では情動バイアスで診察が不十分となることが知られている。

【問題86】

40 歳女性が、いつもの偏頭痛とは違う痛みの前頭部痛を訴え、救急に来院。MRI とMRA の結果、2 つの小さな動脈瘤が見つかり、脳神経外科病棟に入院し、開頭による動脈瘤クリップ手術が施行された。しかし術後、頭痛はむしろ増悪し、会話困難となるほど痛がった。その後、この患者は偏頭痛のため最近数週間、大量のアセトアミノフェンとイブプロフェンを服用していたことが判明した。鎮痛剤長期大量使用に伴う反跳性頭痛と診断され、薬の漸減によって症状が改善した。

次の選択肢のうち、手術を施行するという決断に最も影響したものはどれか。

(1) 神経内科ではなく、脳神経外科にこの患者を入院させた救命救急医の判断

(2) 間違えた画像診断方法を使用したこと(血管造影法のほうがMRI よりも動脈瘤の大きさを正確に評価できる)

(3) 頭痛を完治させるための治療をしたいという医師の熱意

(4) 患者とその家族からの動脈瘤を治してほしいという圧力を医師が感じたこと

正解 (3)

【解説】

行為バイアス(Commission Bias)

手術という行為で、頭痛を早く治療してあげたいという思いが強かったものであり、行為バイアスのケースである。はやく治癒させたいという欲求の強い医師や患者の思いが、このバイアスを生じさせる。

【問題87】

50 歳女性が胸痛、息切れ、倦怠感を訴え、混雑した救急外来に来院し、胸部単純X 線検査を受けた。放射線科医は右下肺野に肺炎を確認したが、第三肋骨における骨病変を見逃した。この患者は抗菌薬を処方され帰宅し、かかりつけ医に行くように勧められた。数ヵ月後、この患者に転移性乳癌が見つかった。次のうち、このミスについて正しく説明しているものはどれか。

(1) この放射線科医は時間的制約と過労があり、これらがエラーにつながった(人為的エラー)

(2) かかりつけ医にかかるように救急医がきちんとコーディネートすべきだった(システムエラー)

(3) 救急医は病歴聴取と診察時に適切なReview of Systems を行わなかった(診断エラー)

(4) 誰の過失でもない(骨病変は胸部単純X 線写真ではある一定の確率で発見困難であり、防ぐことのできないエラーである)

正解 (1)

【解説】

ヒューマンファクターによるエラー

多忙な救急現場ではヒューマンファクターによるエラーが起こりやすい。放射線科専門医などのエキスパートであっても、このような時間的プレッシャーがあると、救急現場での読影ミスの原因となる。

【問題88】

糖尿病の併存がある58 歳女性が、息切れと上気道炎症状を訴え、救急外来に来院した。トリアージナースがバイタルサインをとり、医師に「またインフルエンザの患者が来ました」と伝えた。この患者は毎日たくさんの水を飲み、症状を改善するためにアスピリンを服用していると医師に言った。身体所見上、低酸素状態ではなく、肺には異常はなかったが、過換気状態(呼吸数30回/分)であった。検査所見は、重炭酸塩(HCO3-)が18 mEq/L ということ以外は異常なし。この患者はウイルス性肺炎と推測され、内科病棟に入院した。この後、この患者はアスピリン中毒であることが判明。診断ミスをした最も大きな原因として考えられるものは次のうちどれか。

(1) 救急で測定された血清重炭酸イオン値は不正確であることが多く、医師はこの値が不正確であると仮定したため

(2) サリチル酸塩中毒についての十分な知識がこの医師にはなかったため

(3) 一般的な症候群の診断名を付けるために、この季節によく見られる病気を自身の経験を基に診断したため

(4) サリチル酸塩中毒とウイルス性肺炎は症状が似ており、しばしば起こる診断ミスは避けられないため

正解 (3)

【解説】

アベイラビリティーバイアス(Availability Bias)

流行期でよく見るコモンなインフルエンザなどの病気をただちに想起したケースであり、これもアベイラビリティーバイアスとよばれる。ナースのアセスメントエラーも関連している(これはオーバーコンフィデンスバイアスOverconfidence Bias とよばれる)。

【問題89】

痛風の既往歴がある74 歳男性が発熱と膝関節腫脹を主訴に入院した。関節穿刺の結果、滑液中に尿酸結晶とグラム陽性双球菌が認められた。抗菌薬の静脈内投与が開始された。この後、患者の誤嚥が目撃され、呼吸停止になり気管内挿管され、内科ICU に移された。内科ICU の医療チームはリウマチ専門医に再度、関節穿刺を依頼した。前回の滑液からは未だにどの菌も培養で陽性ではなかった。このリウマチ専門医とフェローはナースステーションにある患者のカルテを見直し、関節穿刺のために患者の部屋へ向かったが、間違えた部屋に入り、違う患者の関節に穿刺をしてしまった。

以下のうち、どのタイプのエラーが起こったか。

(1) 二度目の関節穿刺は必要ではなかった。一度目の滑液の最終的な培養結果が出ていないうちに再度穿刺してしまったからである(判断エラー)

(2) 検査技師がグラム染色結果を間違えて解釈してしまった(技術的エラー)

(3) この患者の引き継ぎをしたフェローは、この患者がどの部屋にいるのか正確に伝えなければならなかった(引継エラー)

(4) 関節穿刺をする前に患者確認を怠った(システムエラー)

(5) このリウマチ専門医とフェローは一度目の関節穿刺のマークを探すために関節を診察しなかった(手技エラー)

正解 (4)

【解説】

システムエラー(Systems Error)

手技を行う前に、一度みなで確認作業を行う(タイムアウトtime-out という)を施行しなかったためと考えられる。患者取り違えなどを防ぐために、手術や手技の施行前にはかならず、タイムアウトした確認作業を行うべきである。

【問題90】

金曜日で違う科に移るレジデントが、患者の引き継ぎのため、新しく交代するレジデントに電話をした。患者の名前はジョーンズさん、脳梗塞の既往歴がある75 歳女性。この患者は今週の始めに精神錯乱のため入院。入院時、せん妄、発熱、腹痛が見られ、尿検査ではほとんど菌は見られなかったが、各視野20~50(高倍率)の白血球が認められた。患者の意識障害は尿路感染によるものであり、土曜日までに熱がなかったら退院の予定だと伝えた。患者は土曜日まで熱はなかったが、意識障害は遷延していた。患者の家族には尿路感染は完治したと伝えられ、患者は退院したが、一週間後、意識障害が悪化したため患者は再び家族に連れられ救急外来を受診した。腰椎穿刺の結果、脳炎の診断となった。この診断の遅れに、最も寄与したものはどれか

(1) 最初に患者を見たレジデントチームは、感染尿と汚染尿の違いがわからなかったため

(2) このレジデントの引き継ぎの書類には、少数の菌しかいなかったという尿検査の結果が記載されていなかったため

(3) この患者の引き継ぎをしたレジデントは、その他の考えられる診断名と治療法を次のレジデントに伝えなかったため

(4) 引き継いだレジデントは、最初のレジデントから聞いた患者症状と一致しない実際の症状より、適切な診断と治療を見出すことができなかったため

正解 (4)

【解説】

アンカーリングバイアス(Anchoring Bias)

患者を引き継いだ入院担当チームは、救急室で患者を担当したメンバーの診断を信じて、意識障害を来す他の疾患の可能性を考えず適切なワークアップを行わなかった。アンカーリングバイアスのケースである。

【問題91】

迅速かつ効率的で正確な診断を下すことのできることが多い診断技術は、次のうち何と呼ばれて

いるか。

(1) 臨床予測ルール

(2) ベイズ解析

(3) アンカーリング

(4) ヒューリスティックス

正解 (4)

【解説】

ヒューリスティックス(Heuristics)

迅速、効率的でかつ正確な判断ができる判断ルールをヒューリスティックスという。

これらのうち、汎用的で重要なものをクリニカル・パールという。

【問題92】

診断の見逃しにおいて、一般的な理由は次のうちどれか。(2005 年に発表されたGraber による診断エラーについての論文)

(1) 簡単に思い出せ、最近見た診断を、よりふさわしいと考えるから

(2) めずらしい診断を追い求め、「コモンディジーズ」を忘れてしまうから

(3) 典型的な症状に固執し、非定型的な症状を見過ごしてしまうから

(4) 適切なタイミングで最適な専門医の助言を求めることに失敗するから

(5) 適切な検査がすべて完了する前に診断を下してしまうから

正解 (5)

【解説】

早期閉鎖(Premature Closure)

診断エラーで最も多い理由は、診断の早期閉鎖である。これは、さまざまなバイアスによって推論が不正確となり、適切な診断ワークアップを行わずに早期に誤った診断を下してしまうことである。

【問題93】

分析的診断法ではなく、直観的診断法を用いることと、関係がないのは次のうちどれか。

(1) 初学者(医学生など)

(2) 疲労

(3) 時間的制約

(4) 臨床における熟錬

(5) 感情的な状態

正解 (1)

【解説】

二重プロセスモデル(Dual Process Model)

直観的アプローチは、エキスパートが迅速で正確な診断を行うときに利用する方法ではああるが、非エキスパートが過疲労状態や感情的状態、時間的プレッシャーに襲われたときに用いると、認知バイアスに陥りエラーの原因ともなる。一方、分析的アプローチは、初心者が用いる方法であり、時間がかかる。

参考文献:

  1. https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02965_02

直感的診断の可能性

DEM International Conferenceに参加して

2. http://www.jround.co.uk/error/reading/crosskerry1.pdfhttp://scholar.google.co.jp/scholar?  The importance of cognitive errors in diagnosis and strategies to minimize them

hl=ja&q=The+importance+of+cognitive+errors+in+diagnosis+and+strategies+to+minimize+them.&btnG=&lr=

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末梢性ニューロパチーの臨床的アプローチ

末梢性ニューロパチーの臨床的アプローチのキーポイントが下記の文献にまとめられているので紹介する。

  1. 末梢神経系は大径有髄運動性軸索と固有感覚, 振動覚, 軽い触覚を伝播する感覚性軸索と軽い触覚, 痛覚, 温度覚, 節前自律神経機能を伝播する小径有髄軸索と痛覚,温度覚,節後自律神経機能を伝播する小径無髄軸索より構成される。
  2. ニューロパチーの症状は運動性, 感覚性, 自律神経性でありうる。日常生活活動の障害に関する質問は情報を与える。

3.病歴は病気の進展の時間軸, 社会歴, 家族歴, 医療歴(ニューロパチーと関連する基礎疾患を含む), 外科系病歴, 神経毒性処方のreviewを含むべきである。

4.小趾の屈曲伸展の低下と母趾の伸展の低下は運動機能障害の早期の徴候となりうる。

  1. 感覚検査は末梢神経系解剖学と病気のパターン型の知識を持ってアプローチすべきである。

6.ATR(アキレス腱反射)の低下や消失は神経長依存性ニューロパチーではよくみられるが, 小径線維ニューロパチーでは,ATRは正常である。

  1. 歩行検査は徒手筋力検査では同定できない筋力低下を明らかにする。踵, つま先, 継足歩行, スクワット, ホップをさせてみる。
  2. ニューロパチーの特性評価は時間的プロファイル(発症の速度や期間), 遺伝, 解剖学的分類を含む。解剖学的分類は(1)線維型(運動性vs感覚性, 大径vs小径, 体性vs自律神経性),(2)障害される線維の部分(軸索vs髄鞘),(3)障害される神経の大まかな分布(例:神経長依存性,非依存性,多巣性)を含む。
  3. ニューロパチーの特性評価は臨床医が多くの中毒性, 遺伝性, 後天性疾患の鑑別に必要な検査を最小限にするのに役立つ。

10.大部分のニューロパチーは潜行性発症で慢性進行性である;1か月前後の急性発症はギラン・バレー症候群(GBS), 血管炎, ポルフィリア, 感染性原因 (例: ジフテリア, ライム病), 中毒性/薬物暴露 (例: 砒素, タリウム, 化学療法剤, ダプソン)を示唆する。

  1. ニューロパチーの家族歴, 感覚系症状陽性の欠如, 早期発症, 対称性, 骨格系異常の合併, 非常に緩徐進行性経過を有する患者では, ニューロパチーの遺伝性原因を考慮すべきである。
  2. 著明な自律神経性ニューロパチーは糖尿病, アミロイド―シス,GBSを示唆する。
  3. 脱髄性ニューロパチーを示唆する特徴は萎縮のない脱力, 近位部優位の神経長に依存しない分布, 臨床的または電気生理学的に非対称性/斑状の分布, 近位部の反射の障害, ミオキミアを含んでいる。
  4. 大部分のニューロパチーは対称性で神経長に依存し, 通常は代謝性, 特発性, 遺伝性, 中毒性状態に起因する。下肢の症状が膝まで上行すると, 手の症状が始まる。
  5. 著明な早期の近位部の障害, とくに臀部屈筋の脱力を呈するニューロパチーは, 脱髄性ニューロパチーの可能性をもたらす。近位部と遠位部の脱力が合併することは慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)の特徴である。
  6. ニューロパチーの成因に対する血液検査は空腹時血糖, 腎や肝機能を評価するための電解質, CBCと分画, ビタミンB12, 赤沈, TSH, 甲状腺機能検査, 血清免疫固定電気泳動を含むべきである。
  7. 遺伝検査は臨床症状, 遺伝パターン, 電気的診断分類に合わせると, 最も有効である。
  8. 電気的診断検査は末梢神経系障害の部位, 障害される神経の集団(運動性vs 大径線維感覚性), 重篤度, 障害部位, 障害神経の部分(軸索vs髄鞘), 慢性化, 再生状態を決定するのに有用である。
  9. 軸索性ニューロパチーでの神経伝導所見は, 感覚神経活動電位(sensory nerve action potential: SNAP)と複合筋活動電位(compound muscle action potential: CMAP)振幅の減弱を含む。脱髄性ニューロパチーでの所見は伝導速度の遅延, 遠位潜時 (distal latency) の延長, 伝導ブロック, 時間的分散 (temporal dispersion), 遠位CMAP持続時間の9msec以上の延長, F波最小潜時の著明な延長, F波が持続しない(impersistence),潜時のばらつき(chronodispersion), 欠如を含む。非対称性, 腓腹神経の回避, 同一神経での運動, 感覚機能の解離は後天性の脱髄性ニューロパチーの可能性または多発性単ニューロパチーを示唆している。
  10. 均一な脱髄性の特徴は, 後天性ニューロパチーよりも遺伝性ニューロパチーに関連していることがより一般的である。後天性のものでは伝導ブロックや時間的分散が通常見られる。
  11. 磁気刺激とsomatosensory-evoked potentials (SSEP) は, 神経根, 神経叢, 近位部の神経(例:大腿神経)の脱髄を同定するのに役立つ。
  12. 量的感覚検査は小径, 大径線維ニューロパチーの両者を同定するのに有用であるが, 患者の協力に依存して時間がかかり, 真に客観的ではなく, 機能障害を局在化することができない。
  13. 交感神経性汗腺神経検査は交感神経性皮膚反応 (sympathetic skin response: SSR), 量的汗腺神経軸索反射検査, 体温調節発汗検査を含む。心血管系評価は,深呼吸時のR-R間隔,バルサルバ法, 起立とtiltに対する血圧反応を含む。
  14. 小径線維ニューロパチーでは,発汗神経検査は心臓迷走神経検査より感度が高い。
  15. 十分な臨床的, 電気生理学的, 臨床検査評価以前には, 神経生検評価を施行すべきではない。

26.神経生検の威力は急性/亜急性,非対称性,多巣性,進行性ニューロパチーにおいて最良となる。

27.AAN practice parametersは,血管炎,サルコイドーシス,CIDPなどの炎症性疾患や

ハンセン病などの感染性疾患や腫瘍,アミロイド―シスなどの浸潤性疾患の診断における神経生検を推奨している。

28.神経生検はまた原因不明のびまん性ニューロパチーで推奨されているが,中毒性,代謝性状態に伴う遠位性,対称性,軸索性ニューロパチーにおいては有益であることはまれである。

  1. 皮膚生検は小径ニューロパチーの現在最も利用できる検査である。表皮内神経線維密度と神経線維形態が評価される。最も一般的な生検部位は腓腹筋遠位部と近位部外側大腿である。
  2. 汗腺神経線維密度の分析は, 自律神経と体性神経それぞれを評価するので, 小径線維の評価における表皮内神経線維密度に補完的となる。
  3. 皮膚生検は神経長依存性, 非依存性ニューロパチーを鑑別するのに役立つ。神経長依存性ニューロパチーでは, 近位部の表皮内神経線維密度(intraepidermal nerve fiber density: IENFD) は比較的に保たれているが, 一方,神経長非依存性ニューロパチーでは,近位部のIENFDは遠位部のIENFDよりも同等かまたはより障害されている。神経根症ではIENFDは正常である。
  4. 小径線維を研究するために推奨される最新の2つの技術は, 角膜の共焦点顕微鏡検査とlaser Doppler imager flareである。それに加えて, マイスナー小体密度 (in vivo の反射共焦点顕微鏡検査を利用する)と皮膚のしわの評価が開発の初期段階である。

文献

  1. Alport AR et al: Clinical approach to peripheral neuropathy: Anatomic localization and diagnostic testing. Continuum Lifelong Learning Neurol 18:13–38, 2012

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神経内科医にpodcastの利用を勧める

神経内科医にpodcastの利用を勧める

定年退職後の4月から、i-phoneを持つようになり、非常に便利になった。講演会で言及された論文について、google scholar検索をして、論文のPDFがすぐに見ることができる。講演後に質問の参考になることもある。また、yahooもすぐに見ることができるので、数分の間に情報を見ることができる。最近、はまっているのは、週末に庭の雑草を除去する作業時に、podcastで流される神経内科関連ジャーナルの最新文献の紹介や講義や座談会(すべて英語)を聞くことができるようになったことだ。最初は有料ではないかと思ったが、無料だったのだ。国際学会で発表や討論をしたい神経内科医や最新の医学情報を入手したい場合はまずは、英語での情報を入手して、その後に論文を読むとこともよい。京都での2年後の国際神経学会で自分をアピールしたい若手神経内科医は通勤の時間にこのpodcastで流れる英語に慣れておくことをお勧めする。American Academy of Neurologyのpodcastでは、抗NMDA受容体脳炎を記載したDalmau教授の講義を拝聴することができる(2週毎にAANジャーナルのハイライトが紹介されている)。

*Neurology Today

http://journals.lww.com/neurotodayonline/pages/podcasts.aspx

*Practical Neurology

http://pn.bmj.com/site/podcasts (このHPでも講義を拝聴できる)

マイケル・フォックスが主演する「Back to Future」は何度も見た映画であり、僕の夢にも出てきたことがある。未来に行くことができ、現在わかっていない情報を得ることができたら、素晴らしいと夢想したことがあった。彼は若年発症PD患者で、ジスキネジアがめだっている。彼の主治医は脳死の患者で見られることがあるラザロ徴候を記載したRopper教授だったのだ。

Ropper AH: Unusual spontaneous movements in brain‐dead patients.” Neurology 34: 1089-1089, 1984

http://www.lifestudies.org/jp/masui.htm 以前に森岡正博先生の掲示板にコメントしたことがある)

Ropper教授の興味深いインタービューを聞くことができる。

Lucky Man: A review of Michael J Fox’s memoir

July 29, 2014

Michael J Fox, star of the Back to the Future trilogy, was born in 1961, moved to Hollywood aged 18 and while avidly lapping up the customary attention and refreshments, he developed Parkinson’s disease.

He has now authored a memoir describing his experience of the disease alongside his career as an actor. PN editor Phil Smith gathered the PN book club to discuss the memoir with Fox’s neurologist from the Brigham and Women’s Hospital, Allan Ropper, and in this podcast you can hear his thoughts, as well as contributions from book club lead Katherine Harding, Department of Neurology, University Hospital of Wales, and Huw Morris, expert in early onset Parkinson’s, National Hospital for Neurology and Neurosurgery.

You can also hear each contributor’s interview in full.

Allan Ropper: http://goo.gl/tsl2p3

Katherine Harding: http://goo.gl/8B6ENw

Huw Morris: http://goo.gl/3gRqNY

Read Dr Harding’s review of ‘Lucky Man’: http://pn.bmj.com/content/14/4/283.full

Allan Ropper on ‘Lucky Man’

July 29, 2014

Michael J Fox, star of the Back to the Future trilogy, was born in 1961, moved to Hollywood aged 18 and while avidly lapping up the customary attention and refreshments, he developed Parkinson’s disease.

He has now authored a memoir describing his experience of the disease alongside his career as an actor.

In this podcast, hear PN editor Phil Smith the book with Fox’s neurologist from the Brigham and Women’s Hospital, Allan Ropper.

下記の講義は現在、執筆している本(研修医、総合内科医、若手神経内科医向けの神経内科症例集)の参考資料としてとりあげたい。

ABN special: How neurologists think, and what my errors taught me:誤診から学ぶ

June 24, 2014

Martin Samuels, professor of Neurology, Harvard Medical School, tells Huw Morris, professor of Clinical Neuroscience at the National Hospital for Neurology and Neurosurgery how neurologists make decisions, and the value of making mistakes.

Professor Samuels gave the 20th Gordon Holmes lecture, supported by Practical Neurology, at the 2014 ABN Annual Meeting, where this podcast was recorded.

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運動ニューロン病:診断のピットフォール

運動ニューロン病:診断のピットフォール

Williams TL: Motor neurone disease: diagnostic pitfalls. Clinical Medicine 13: 97–100, 2013

http://www.clinmed.rcpjournal.org/content/13/1/97

発症, 進行速度, 部位がかなり異なることから診断が遅れることが多い。

四肢を障害する下位運動ニューロン(LMN)症候群

症状がLMNのみを障害する場合は, 誤診はより頻繁に見られ, MNDの誤診率は20%に達する。いくつかのMND類似疾患は治療可能であり, 非常に予後が良いことは重要である。したがって, 評価のために, このような患者の専門医神経内科的サービスへの迅速な照会は重要である。専門医の手中にあっても, 継時的な評価は正確な診断をつけるのに必要なことが多く, また、臨床的なフォローアップはどれだけ誇張してもし過ぎることはない。

鑑別診断

遺伝性疾患:脊髄性筋萎縮症, 球脊髄性筋萎縮症, ヘキソサミニデース欠損症, ミトコンド リア病, triple A (Allgrove) 症候群, 多糖体小体病, 遺伝性痙性対麻痺, adrenomyeloneuropathy

有毒性、代謝性疾患:放射線脊髄症, 副甲状腺機能亢進症, 鉛中毒, 水銀中毒, 銅欠乏症

感染性疾患:ポリオ後症候群, ライム病, HIV

免疫性, 炎症性症候群:異常蛋白血症ニューロパチー, 伝導ブロックニューロパチー, シェーグレン症候群, 封入体筋炎, グルテン感受性, 重症筋無力症, 多発筋炎

構造的疾患:脊椎症性脊髄症, 頭蓋底病変, 大後頭孔病変, 内因性, 外因性脊髄腫瘍, 腰仙髄神経根症

他の疾患:Cramp-fasciculation 症候群, 傍腫瘍性疾患,リンパ増殖性疾患,傍腫瘍性神経筋症候群 (Triple A症候群(Allgrove症候群): ACTH不応症に無涙症(alacrima)とアカラシア (achalasia)を伴う。精神運動発達遅滞、構音障害、筋力低下、運動失調、自律神経障害などがみられる)

MNDに類似する全身性、局所性~一肢発症の下位運動ニューロン(LMN)症候群

腕神経炎:突然発症の腕神経叢を障害する特発性炎症性疾患。強い痛みの後に脱力と筋萎縮が出現する。通常は単相性で良好な回復(不完全なこともあるが)を示し, 自然治癒性である。両側性に選択的に横隔神経を障害し, 無痛性のこともありうる。Parsonage–Turner症候群としても知られている。

Hirayama: 良性若年発症上肢一側肢筋萎縮症(benign juvenile onset monomelic amyotrophy または局所性髄節性脊髄性筋萎縮症(focal segmental spinal muscular atrophy)として知られている。1~3年は進行し, 進行しないかまたは回復はなく停止する。他の上肢やまれには下肢のサブクリニカルな障害がEMG/NCSで見られる。いわゆる「寒冷麻痺」や前腕のoblique amyotrophyが特徴的である。MNDは典型的にはより急速に進行し, 呼吸筋や球麻痺が出現する。大部分は日本とインド亜大陸で多くみられる。

伝導ブロックを伴う運動性ニューロパチー:典型的には60歳以下の発症でまれである。伝導ブロックはEMG/NCS検査で必ずしも容易には検出されない。萎縮のない筋肉(脱神経になっていない筋肉)の過度な脱力が見られる。抗ガングリオシドGM1自己抗体が陽性。

慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチー(CIDP:LMN徴候と髄液蛋白の著明な増加を示し局所性または全身性の脱力を来す純粋運動性症状を呈するまれな疾患。EMG/NCSにより、MNDとの鑑別は十分に可能である。

頚椎症性神経根障害:疼痛なしでも発症しうる。変形性疾患の患者は神経根性の疼痛を有している。脊椎症の最初の症状は進行性であるが, MNDでは見られない特徴である進行性は停止する。画像が脊椎症の患者を同定するのに役立つ。さらなる合併症として, 多くのALS患者は臨床的には無関係である可能性が高い変形性脊椎疾患の放射線学的証拠を持っている。(Chiles BW 3rd, et al: Cervical spondylotic myelopathy: patterns of neurological deficit and recovery after anterior cervical decompression. Neurosurgery 44:762–9, 1999)

Kennedy症候群:典型的には著明な球症状を有する緩徐進行性LMN症候群。構音障害に比して著明な舌の萎縮, 顔面下部(オトガイ部)の線維束性収縮が特徴的。運動症状とともに感覚性ニューロン障害がよくある。非運動性特徴として女性化乳房や小さい精巣を有する部分的な女性化が見られる。寿命はほとんど正常である。

放射線神経根障害:ときに脊髄症も見られる。精巣がんの男性や子宮頸がんの女性に多い。

大動脈周囲リンパ節の放射線照射は治療野に脊髄遠位部と馬尾を障害する。放射線誘発性動脈内膜炎による運動症候群が主である。

遠位性ミオパチー, 封入体筋炎(inclusion body myopathy (IBM) :典型的には緩徐進行性の左右対称性の脱力(MNDでは急速な進行と非対称性を呈する)。IBMでは遠位部と大腿四頭筋(萎縮を呈する)と長指屈筋の特徴的な障害。嚥下障害もIBMでは見られる。CKは正常範囲の2~10倍と中等度の増加を示す。遠位性ミオパチーとIBMのEMGは「神経原性」特徴を有する。MNDの誤診は13%にまで見られた。

キーポイント

  1. 反射が保たれている筋脱力と萎縮は他の疾患が証明されるまではMNDの可能性が高い。
  2. 50歳以上の患者での進行性無痛性脱力に直面する場合はMNDを考える。
  3. 神経徴候が局在性病変に帰することができるならば, 変形性脊椎疾患を考える。
  4. 一肢または両側肢発症のMNDはよくあるが, 他の良性で治療可能な状態が存在し、さらなる評価を急ぐべきである。
  5. 嚥下障害が構音障害を上回る患者ではMNDの診断に留意する。
  6. 進行性の脱力のない線維束性収縮はよくあり, 通常は良性の現象である。

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神経学の先達たちの名言―「神経症候学は神経学の“魂”である」

神経学の先達たちの名言―「神経症候学は神経学の“魂”である」

去年の日本神経治療学会は、河村満会長の一番のテーマである「神経症候学は神経学の“魂”である」のシンポジウムは圧巻であった。神経内科をめざした若き時代は、CTが出始めたころであり、MRIはまだ出現していなかった。神経内科診療はハンマー、ルーレット、筆などの道具を用いて、患者を診察し、診断をしていくのであるが、ハンマーの使い方は職人的技法であり、自分がやると、反射がうまくでないのに、祖父江逸郎先生が行うときれいに出てくるのには感嘆した。今回のテーマの内容は素晴らしかったが、Brain and Nerveに、2014年11月号に特集号として、学会場で販売されていたのだ。早速、購入した。勤務する病院ではMedical Finderにて無料でその雑誌は閲覧できるが。Medical Finderは医学書院の検索エンジンであるが、当院では3年前に私が導入することを決定したが、非常に便利で他のコメディカルスタッフにも好評であり、感謝されたことがある。福武敏夫先生の書かれたMiller Fisherと葛原茂樹先生の書かれたWartenbergに関する記載内容が素晴らしかったので紹介する。他の論文も力作であり、一読を勧める。

http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=35731

福武敏夫:チャールズミラーフィッシャー 偉大なる観察者. BRAIN and NERVE 66:1317-1325, 2014

Ⅳ.CMFのルール―臨床医学の不滅の方法論

CMFの臨床神経学に対する態度についてはカプランによってまとめられた「17のルール」(和訳は筆者による)がある。このうち特に診断,すなわち症候学的発見に関するものとして次の5つがある。

(1) The bedside can be your laboratory. Study the patient seriously.(ベッドサイドは君の研究場所だ。真剣に患者から学びなさい。)

(2) Settle an issue as it arises at the bedside.(ベッドサイドで生じた論点は解決するようにしなさい。)

(3) Make a hypothesis and then try as hard as you can disprove it or find the exception before accepting it as valid.(仮説を立てなさい,その後に,それを正しいと受け入れる前に反証したり例外を見つけたりするよう精一杯努力しなさい。)

(13) Pay particular attention to the specifics of the patient with a known diagnosis; it will be helpful later when similar phenomena occur in an unknown case.(診断がついている患者ではどこかに特異的なことがないか特別の注意を払いなさい;後に同じような現象が診断未定の症例でみられたときに役立つだろう。)

(15) Resist the temptation to prematurely place a case or disorder in to a diagnostic cubbyhole that fits poorly.(不十分な検討のままで,症例や疾患をあまり合致しない診断でとりあえず済ましてしまう誘惑には抵抗しなさい。)

さらに,発見を世界的に共有するために,

(6) Describe quantitatively and precisely.(量的にそして正確に記載しなさい。)

(8) Collect and categorize phenomena; their mechanism and meaning may become clearer later if enough cases are gathered.(現象を集め,分類しなさい;その機序や意味は後で十分な症例が集まったら明快になるだろう。)

(10) Learn from your own past experience and that of others (literature and experienced colleagues).(君自身の過去の経験と他の人[文献や経験者]の経験から学びなさい。)

(12) Write often and carefully. Let others gain from your work and ideas.(論文を多くかつ入念に書きなさい。君の論文や発想から他人によく学んでもらいなさい。)

と述べている。

以上のルールは,理屈から出発するのではなく観察を通じて患者から学び,患者にその成果を返すという臨床医学の基本中の基本を述べたものといえよう。

おわりに

ここまでの記述で,冒頭の新進気鋭の神経内科医への回答としては十分と思われるが,さらに,CMFの最後のルールを挙げておきたい。

(17)Maintain a lively interest in patients as people.(人間としての患者に対し強い興味を持ち続けなさい。)

ここにこそ,CMFの真髄,すなわちこれからの神経学,神経症候学が果たすべき役割についての最も大切な指針があると信じるからである。興味(好奇心)がなければ観察はできず,また観察こそが患者への貢献への途であることをCMFの生涯は示している。

 

葛原茂樹:ワルテンベルク. BRAIN and NERVE 66:1301-1308, 2014

3.神経学的診察の意味と目的―序文中の言葉から

最後に『(外来診察室での)神経学的診察法』の序文にある言葉のいくつかを紹介する。いずれもワルテンベルクの臨床神経学の真骨頂を表す名言ばかりである。

・臨床診断に用いられる診察手技の利点:検査室の手間や患者への侵襲なしにどこでも容易に行えるテストである

・診察の必需品:どこにでも転がっている道具(ハンマー,痛覚検査用のピンかルーレット)があれば十分で,医師の五感(訓練された観察力)と第六感(研ぎ澄まされた常識)だけが必要である。[診察用具がないことをぼやく医師,診察力を養うことよりも診察用具にこだわる医師を諭す言葉]

・悲しむべき風潮:臨床的診断を下すのに,簡単な診察で得られる所見よりも,無闇やたらに機械や新技術を用いた検査を行い,検査結果を重視する医師が増えていること。

・医師として避けるべき行為:患者や家族からキチンと話を聴くことをせずに,患者を検査室に送ること。

・嘆かわしいこと:自分の眼,耳,手指を働かせる匠の技は廃れて,馬鹿がやっても大丈夫という規格化された方法を求める医師があまりに多いこと。

・新技術による検査の意味と価値:血液や画像を用いた新しい検査の重要性や将来性はいくら高く評価しても評価しすぎることはない。問題は,これらの検査を用いるか否かではなくて,いかなる場合に用いるかである。

<検査を行う前に考慮すべき十カ条>

1.実施までに時間がかかる。そのために貴重な時間をロスすることにならないか?

2.高額で患者の負担が増えないか?

3.患者に苦痛や副作用,後遺症を起こさないか?

4.検査機器は円滑に作動しているか?

5.検査結果の判定が難しいときはどうするか?

6.無意味な異常値:異常な検査結果が臨床的に意味あるものかどうか?

7.興味深い検査値であっても,臨床診断には無関係なものがある。

8.検査所見の判定には,信頼できる診察所見と照合させることが不可欠である。

9.的確な神経学的診察所見があってこそ,検査値の意味が明確になり有用となる。

10.検査所見と臨床的診察所見が合致しない場合には,よく精査したうえで診察所見を優先させるほうが適切である。

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救急部での頭痛のマネージメントにおけるピットフォール

Swadron SP: Pitfalls in the management of headache in the emergency department.

Emerg Med Clin N Am 28:127–147, 2010

救急部での頭痛のマネージメントにおけるピットフォール

病歴と理学的検査のピットフォール

*治療反応を診断に関連づける

一次的頭痛は鎮痛剤に対する患者の反応により二次性頭痛から鑑別が可能というのは、よくある危険な誤解である。頭痛の痛みは最終的共通経路を介するため、鎮痛剤に対する反応は根底にある原因に対する糸口にはならない。生命に脅威を与える二次的頭痛は片頭痛の薬物やアセトアミノフェンのような単純な鎮痛剤で改善することもあり、治療しないでも自然軽快することもある。これらの薬に対する陽性反応は、頸動脈解離、CO暴露、脳腫瘍、SAH、髄膜炎や静脈洞血栓症を含むすべてのカテゴリーの二次性頭痛で報告されている。

*既知の一次性頭痛を有している患者の二次的頭痛の診断を却下する

永続する片頭痛が最も多いが、新しい正確な診断を妨げることがある。この病歴は生命に関わる虚血性脳卒中などの二次性頭痛の原因のリスクを高める。

*頭痛を高血圧のせいにする

頭痛のような急性疼痛症候群は血圧の上昇を来し、疼痛の治療が最初のアプローチである。急性の終末器官障害のない状態で、降圧剤で高血圧を積極的に治療することは、望まれない血圧の急激な下降を来し、分水嶺梗塞を招来し、長期の高血圧患者の脳卒中の原因になる。

*SAHの歴史的特徴

二次性頭痛の原因として一番関心のあるはSAHである。他の所見がない状態で散発性の頭痛として通常発症、診断されなければ、非常に致命的になる。「人生最悪の頭痛」と教えられているが、大部分の患者ではそうではない。それに加えて、頭痛の強度に関連する質問に対する回答の仕方に潜在的な矛盾が存在する。ある研究では人生の最悪の頭痛と述べた患者の3分の1が過去に同等の強度の頭痛を同定していた。頭痛発症の突然性、発症時の強度、過去の頭痛の性質と比べることが、より有用である。発症が突然で、すぐに、または、数分で強度が最大である頭痛は、いわゆる雷鳴頭痛であり、重篤な病態をはらんでいる可能性が高い。前方視的研究では重篤で突然発症の頭痛を持つ患者の44%~71%にSAHまたは重篤な病態を有していた。American College of Emergency Physicians は、雷鳴頭痛を有する患者は緊急神経画像検査を、もし画像検査で診断ができない場合は髄液検査を推奨した。SAHが確定した患者での研究では、診断に先行する日、週で頭痛の新しい症状を以前に発症したことが多かった。最初の頭痛は自然に、または鎮痛剤で改善後に良性であると帰されていることが多い。これは動脈瘤性のSAHの自然歴と一致し、症候性の小さなリークが典型的に、より重篤な障害を起こし、生命に脅威を与える出血が後の日、週に発生する。脳外科的介入がdisasterを回避できる診断がこの期間になされるのが一番良い。

他の病歴と理学的検査の重大な特徴

Table 1に二次性頭痛のリストがまとめられている。それぞれの診断は病歴と理学的検査の

重大な特徴と関連していて、もしこれらの特徴が存在する場合は診断的精密検査が指示される。同様に一次的頭痛診断の大部分の患者では診断的検査は必要ではなく、これらの特徴がないことを記載すべきである。大部分の患者では外傷がないことを単に記録することが頭部損傷の可能性を除外するのに十分である。しかしながら、他の人に依存している患者、例えば、子供や高齢者や日常生活活動で介助を必要とする患者では、介助者の異常な態度などの潜在的外傷の疑いがないことに留意すべきである。子供の虐待が疑われる場合に、急性損傷を検出するには、MRよりもCTが優れている。しかしながら、MRは放射線のリスクなしで亜急性、慢性損傷の性質や程度に関する確かな情報を与えてくれるが。

*細菌性髄膜炎は微妙に発症し、最初はウイルス性上気道炎に類似する。発熱と頭痛を呈する患者は最低限、点状出血性発疹や髄膜刺激徴候の存在を徹底的に検査すべきである。KernigやBrudzinski徴候の欠如は頭痛患者ではたびたび記載されているが、両徴候ともまれで、髄膜炎に感度がない。それに対して、頭部を患者が左右に揺らすことにより頭痛の痛みが悪化する場合は陽性と考えられるjolt accentuation testは感度が高いことが分かっていて、さらなる評価のための患者を同定するのに有用である。頭頸部周囲の構造から隣接する拡大の重要性を見逃しやすい;最近の頭頸部の機器による操作がないことや頭頸部の十分な検査は記載すべきである。免疫不全の危険因子や重篤な病人との接触がないこともまた注目すべきであり、両者とも画像と髄液の検査の閾値を低下させる。

*CO中毒はアメリカと世界中でもっともよくある中毒である。生命に脅威を与え、障害を起こし、通常は認識されずに誤診されることが多い。家庭暖房が使用される冬季でインフルエンザ様疾患と関連している頭痛や同居している他の人の同様症状や暴露地域を離れた後は日々改善するパターンはCO中毒の疑いを高める糸口のすべてである。

*側頭動脈炎Temporal arteritis (TA) )は、主として高齢白人女性に慢性の近位筋脱力をきたすpolymyalgia rheumaticaと合併する汎動脈炎である。TAの原型症状は両側側頭部の疼痛と下顎の疼痛性運動障害と安静により改善する咀嚼時の虚血性疼痛である。古典的な理学所見は視野欠損、側頭部の圧痛と触診にて浅側頭動脈の結節性である。大部分の患者はこのような古典的な徴候を示さないが、大多数は新規発症の頭痛であり、50歳以上である。失明(治療により予防可能である)に至る自然の進行のため、TAは新規発症の高齢者では考慮すべきである。

*頸部動脈解離はまれではあるが、発症がSAHに似ている突然発症の頭痛で潜在的に生命に脅威を与える原因である。頸動脈や椎骨動脈解離は自然に発症するか、または、強度の咳、カイロプラクティックの操作のような一見、軽微な外傷により促進される。頸動脈解離では疼痛は一側性であり、顔面を含み、拍動性の耳鳴または眼の交感神経性麻痺 (縮瞳や眼瞼下垂)を合併する。椎骨動脈解離では疼痛は後頭部や項部であることが最も多い。頭痛発症とイベント発症の間の期間は数日であることが多い。しかしながら、もし促進的なイベント、結合織疾患、または、若年、中年の血縁者における説明不能な虚血性脳卒中の家族歴がある場合に新規の突然発症の頭痛患者では、頸動脈解離を臨床的に疑うべきである。

*頭痛を呈する妊娠女性で子癇前症を考慮するが、産褥期での患者では考慮しないことが多い。分娩後にも子癇や子癇前症は大多数の症例で見られ、脳梗塞による永続的な障害、死をもたらす。頭痛は産褥後の子癇前症の患者で最もよくある訴えであり、分娩後4週以内のどの時期での新規の特徴を有する頭痛が発症する場合には、この診断を即座に考慮すべきである。

*重篤な頭痛、嘔吐、羞明を劇的に呈するため、急性閉塞隅角緑内障は最初には見逃されることがときどきあり、SAHや髄膜炎を除外するために時間がかかる診断的な検索がなされる。この時間に緊急眼科的コンサルトをして、局所性、全身性治療による眼内圧の低下に費やすことができる。眼の所見は視力低下、固定した中程度の瞳孔、角膜の浮腫を伴う片側性の赤眼である。救急部の外へ患者を連れていく診断的検査が施行される前のおおまかな検査は重大な介入への遅れを予防する。

占拠性病変は、一次性、二次性新生物、脳膿瘍や嚢胞などの感染的プロセス、未破裂脳動脈瘤やAVMのような血管性病変を含有している。多様性のある病態群であるが、占拠性病変による頭痛は、その発症において共通の特徴を共有している;必須条件は病変が量的に拡張し、頭蓋内圧が上昇するにつれて、進行性で絶え間のない経過をとる。頭部を下にした位置や頭蓋内圧が高くなっている覚醒後の朝に、頭痛は悪化しやすい。頭蓋骨内の、病変と隣接する構造の特異的部位が発症の他の特徴を決定する。悪性腫瘍や最近の頭頸部の感染、手術、免疫不全、頭痛が新規に発症した50歳以上の患者などのハイリスクの病態を有する患者は神経画像検査を受けることが多い。

*脳、硬膜静脈洞血栓症はもう一つのまれな、生命に脅威を与える、治療可能な頭痛の原因である。頭痛の特徴はさまざまであるが、雷鳴頭痛を呈する患者もいる。脳静脈洞血栓症(VST)のリスクのある患者は、妊娠や産褥期、経口避妊薬の使用などの過凝固状態やネフローゼ症候群、頭頸部感染症、悪性腫瘍や血管炎などである。患者は乳頭浮腫のような頭蓋内圧亢進徴候を呈し、鎮痛の試みにも関わらず症状は継続する。もし、治療されなければ、血栓は静脈性梗塞や出血に進行し、動脈支配領域に一致しない神経学的障害をもたらす。VSTは突然に脳ヘルニアをおこし、死をもたらすことがある。神経学的検査で陽性の所見がない場合は診断を追及する他の糸口はほとんどないので、多くの症例は発症時には診断されない。

*特発性頭蓋内圧亢進症; Idiopathic intracranial hypertension (IIH)は以前pseudotumor cerebriとして知られていたが、肥満の中年女性に多い傾向がある、よく理解されていない疾患である。頭蓋内圧の持続的な上昇がクモ膜顆粒のレベルでの髄液ドレナージの閉塞と関連している。しかしながら、少なくとも、VSTと共存する症例では、造影画像検査では可視できること、このサブグループではより緊急性の治療が急速な悪化を予防するために必要となる。肉眼的な血栓がない場合には悪化はより緩徐であり、もし頭蓋内圧が低下しなければ、進行性の視野障害を起こす。乳頭浮腫が見られ、視野の末梢性欠損が見られる。片側性または両側性の第6脳神経麻痺が存在する場合もある。この麻痺は頭蓋内圧上昇の結果であり、局在性のプロセスではなく、偽性局在性徴候であると考えられる。神経画像検査が陰性で占拠性病変に一致する頭痛パターンを有する患者ではIIHの診断が疑われるべきである。その診断はVSTほど、緊急を要しないが、腰椎穿刺の初圧が非常に高く、患者の症状が即座に改善する場合はこの疾患が強く示唆される。

*下垂体性卒中(Pituitary apoplexy)は非常にまれな雷鳴頭痛の原因である。下垂体に先在するadenomaに出血または梗塞として定義される。頭痛は最も著明な主訴であるが、視力低下や視野の減少、眼の麻痺などの視覚徴候をよく伴っている。

診断的な検査のピットフォール

*SAHの除外のために神経画像に頼ること

CT技術の進歩にも関わらず、単純CT画像のみでは非外傷性SAHを除外するには不十分である。1つの論文を除くすべての論文では、実質的に少数例でのLPは、陰性CT後にSAHの診断をするため必要となる。これらの症例シリーズでの感度は90%を超えていることが報告されているが、SAHに対するCTの感度はいくつかの理由で有意に低い。第1の最大のものはスペクトラムバイアスの根本的な問題である。大部分の研究は最終的にSAHと病院で診断された患者群、救急部や他の外来場面から退院した潜在的に見逃されている、より重篤でない発症の患者で分析を始めている。これらはまさに、時宜を得たSAHの診断が第2のより重篤な出血を予防するための重要な患者である。さらにほとんどの研究は照会病院で施行されている。そこでは設備や放射線科医の専門家が適切である。general radiologistの能力は、CTでの少量の出血を検出するのに、サブスペシャリストの神経放射線科医よりも劣ることが知られている。最後に、最初のリーク後に少量のクモ膜下血液は急速に吸収される;発症後12時間で、CTの感度は時間とともに減少する。MR, MR angiography, CT angiography, conventional angiographyなどのほかの画像モダリティーは、SAHが疑われる症例での髄液検査をする腰椎穿刺の必要性を省略できない。出血後に最初の数時間ではMRは血液の存在に対してCTより感度が落ちる。血液を検出する能力をより有するFLAIR法を追加しても不十分である。陰性CTを呈した12例の研究では、髄液検査によりSAHがその後に判明したが、MRは2例に出血を検出するのみであった。(Mohamed M, et al. Fluid-attenuated inversion recovery MR imaging and subarachnoid hemorrhage: not a panacea. AJNR Am J Neuroradiol 2004;25:545)どの方法によるangiographyも未破裂で無症候性動脈瘤(患者の余命中に破裂する可能性は著しく低い)と症候性動脈瘤(すでに出血し、重篤な結果を伴う再出血をおこしやすい)を区別することができない。動脈瘤が血管撮影で検出された場合、SAHを確認する髄液検査をする腰椎穿刺は外科的介入の必要性を決定するのに重大となる。脳動脈瘤の一般人口における全体的な有病率は2~6%で、頭痛を伴う非選択性の患者に対する血管撮影の無差別な適用は不必要で有害な侵襲的処置をもたらしうる。

CTの他の制限

*CT はVST(脳静脈洞血栓症)を検出する感度はない

 その感度を正確に推定するデータは欠如しているが、VSTの127例の連続症例で、頭痛単独の17例では脳CTは正常であった。造影CTの追加はいくらかの症例では役だつであろうが、診断はMR venographyにより除外することができる。しかしながら、この診断がまれであるゆえに、神経学的所見のない患者で、危険因子がなく、VSTの存在が臨床的に強く疑われない場合には緊急にMRVを施行することは無分別な期待である。

小脳梗塞は脳梗塞と同様に数時間はCTスキャンで明白にはならない。しかしながら、小脳梗塞は救急医による特別な配慮に値する。なぜならば、神経学的検査で脱力がなく、他の局在性徴候がない頭痛として発症しやすいからである。 さらに後頭蓋窩に局在するため、病変が進行すると、浮腫が起こり、脳ヘルニアのリスクが非常に大きくなる。CTはMRよりも後頭蓋窩の内容を可視化には、MRよりも感度が低いが、小脳梗塞による浮腫はたびたび見ることは可能である。結果としての圧排効果による第4脳室の偏位または閉塞は、可能な減圧術のための脳神経外科的コンサルトを迅速にすべきである。

*それと対比すると、下垂体卒中はCTでは可視化されないことが多く、もし、これが臨床的に疑われる場合はMRが推奨される。

髄液結果の誤解釈

*SAHや髄膜炎が疑われる頭痛の評価において、髄液検査の腰椎穿刺は決定的である。両者とも、正確な診断を阻害するいくつかの共通するピットフォールが存在する。SAH発症後数時間は、赤血球は循環する髄液で多数検出できる。15%までの症例では腰椎穿刺はtraumaticで、硬膜外血管からの赤血球が検体を汚染し、真のSAHを同定することが困難となる。よくある誤解は連続的な収集管で赤血球が進行性に減少することがSAHの可能性を除外するということである。SAHはtraumaticな腰椎穿刺により発生する赤血球と共存することがあるので、SAHの可能性は、もし管の一つでの髄液カウントがゼロになった場合は唯一安全に除外できる。もし血液が腰椎穿刺の最初に起こったら、最初の2~3mLの液を捨てて、髄液が透明になれば赤血球カウントがゼロに近づく可能性が増加する。もしそうならなかったら、異なった椎間で腰椎穿刺を反復する必要がある。Traumatic tapが赤血球のカウントの解釈を困難にする症例では、真のSAHの存在の確認にキサントクロミアの存在が使われていた。キサントクロミアは黄色調の変色であり、SAH数時間後に発生し、赤血球がin vivoでビリルビンとオキシヘモグロビンに分解される。しかしながら、キサントクロミアは収集された検体でin vitroで発生することが記載されており、疑陽性の結果となる。さらに、in vivoで発生するキサントクロミアはより信頼があるが、頭痛発症後12時間まで待つという習慣は勧められない。髄液検体の解釈に関するこの技法の長所は2回目の出血のリスクより勝っていて、最初の出血後にすぐに続いておこる。髄液検体を遠心後に視覚的な検査により、ほとんどすべてのUSのラボはキサントクロミアを測定する。この技法を用いて、偽陰性の結果が出ることがある。 頭痛の疼痛発症の数日後の患者ではキサントクロミアは髄液検査のSAHの残存する唯一のサインであり、典型的には2週間持続する。陰性の髄液検査は効果的にSAHの診断を除外するが、頸動脈解離、脳、硬膜VST、小脳梗塞、下垂体卒中のような雷鳴頭痛を来すほかの血管系の緊急事態を除外できない。

*中枢神経系感染症疑い患者における髄液の解釈の重要なピットフォールが存在する。救急部で入手できる髄液分析の最初の結果で細菌性とウイルス性髄膜炎を区別することは困難である。細菌性髄膜炎は多核白血球優位の細胞増多と糖の低値、Gram染色陽性の結果になりやすいが、これらの特徴は信頼できるほど存在していないし、ウイルス性髄膜炎の髄液所見と優位なオーバーラップが存在する。もし、細菌性髄膜炎の十分な臨床的な疑いが存在するばあいは、最も思慮深い経過は細菌培養の結果が入手できるまでは、広域抗生物質を使用することである。幼児、高齢者集団や免疫不全患者は最初の髄液検査では限定された細胞反応を示す。さらに、免疫不全が疑われる患者では、Cryptococcus neoformans やmycobacteriaのような非典型的な病原体を考慮すべきである。これらの病原体に対する特異的な検査は必要であり、院内内科医が後で検査するために髄液の追加チューブでの採取が有用である。Traumatic tapでは、白血球は赤血球と固定的な比率で少数に存在するが、典型的には500個の赤血球に対して1個の白血球の範囲である。この比率は末梢血でのこれらの細胞の相対的な比率に依存している。多数の白血球の存在と髄膜炎が臨床的に疑われる場合に、traumatic tapの髄膜炎を除外するためのこのような比率の使用を支持する証拠はあるけれども、異なった椎間で腰椎穿刺を反復することが推奨される。ウイルス性髄膜炎の最も重要で治療可能な原因である単純ヘルペスウイルスは髄液の赤血球と白血球を含有していることに注目すべきである。

腰椎穿刺の合併症

*腰椎穿刺の最も一般的な合併症は持続的であり、救急部に繰り返し訪問する結果をたびたび生じる、消耗性の体位性頭痛である。 これらの頭痛はいくつかのシリーズの患者のうちの最高1/3に起こり、腰椎穿刺施行後3日以内に通常起こる。頭痛は一般に横になることを患者に強制し、立位ではより悪化すると表現される;これは、穿刺部位での進行性の髄液の漏れと、その結果生じる頭蓋内圧低下症に起因しているという理論と一致している。

しかしながら、腰椎穿刺後頭痛を予防するために、小さな(22ゲージ)無傷(角張っていないtip)針を使用する慣行を支持する十分な証拠が存在する。腰椎穿刺後頭痛を防止するために患者に行う伝統的な手順(検査後のベッド上の安静、輸液の増量、およびカフェイン投与を含む〉の多くは証拠としてほとんど、または基礎を全然持っていない。しかしながら、小さい(22ゲージ)、atraumatic(noncutting tip)針を、腰椎穿刺後頭痛を予防するために使用する慣習を支持する十分な証拠がある。硬膜外ブラッドパッチ、患者自身の血液5~30mLの硬膜外腔への前処置の部位への注入は、他の治療が反応しない腰椎穿刺後頭痛に対して有効な治療法であることが知られている。腰椎穿刺の最も恐れられている合併症は脳ヘルニアである。まれではあるが、処置とそれに続くヘルニアとの間に強い時間的関連が因果関係に力を貸している。このリスクを最小化するため、腰椎穿刺の前にCTスキャンをとることを大部分の研究者は推奨している。正常CTスキャンは完全には腰椎穿刺に伴う脳ヘルニアのリスクを除外できないが、占拠性病変や他の構造的変化を有する患者では腰椎穿刺は勧められない。

他の検査上のピットフォール

*COオキシメトリ値は誤解を招きやすい。COは時間経過につれ、血液から除去されるので暴露後、長時間の患者での低値または検出できないレベルはCO中毒を除外できない。長期間の暴露で蓄積した高い組織レベルを有する中毒患者でさえ、高流量の補助酸素の投与は血液からのクリアランスを加速し、正常、正常に近いところのレベルまで導く。もし、診断が強く疑われる場合は、疑われる中毒環境から患者を排除すること、いかなる再発する症状を持つ検査を繰り返すことが推奨される。

*ESRは頭痛を有する高齢患者での側頭動脈炎(TA)の有用なスクリーニング検査であるが、極端に高い検査前の確率の存在では、診断を除外することの感度は不十分である。したがって、顎の疼痛性運動障害、浅側頭動脈の小結節形成または圧痛、複視を呈する患者では診断的評価は正常、または軽度増加したESRで終了すべきではない。このような示唆的な臨床特徴、または、特異的な特徴が少ないがESRが高値を呈する患者では、経験的なコルチコステロイドを側頭動脈生検で確定的な診断決定がなされる前に投与すべきである。

*D-dimer検査はVSTを呈する患者の同定に役立つ。しかしながら、特異度の欠如は、十分に記載されていて、周産期の女性や悪性腫瘍、血管炎、他の慢性炎症性状態を有する患者のようなVSTの危険因子が同定される患者で最も注目される。D-dimer は特に単独の頭痛を呈した患者における造影神経画像検査でVSTが確定診断されたかなりの数の患者で、また偽陰性である。

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