下記のレジメは、脳のなかの幽霊(角川書店)という本からまとめたものです。
幻肢痛Phantom limb pain
1。切断した手足の感覚があとまで残る(16世紀フランスの外科医パレ)
2。ネルソン提督-右腕切断後に幻の手に指が食い込むような感覚を経験
この幽霊は魂が存在する直接証拠だと主張。
3。幻肢とういう用語は、南北戦争後にフィラデルフィアのサイラス・ワイアー・ミッチェルにより考案。
4。一般的な説明:切断末端部が炎症をおこし、神経過敏になるために、高次の中枢がだまされて、失った手がまだあると思いこむ。
ペンフィールドのホムンクルス
1。大脳皮質の表面にぶらさがった変形した小人
2。ペンフィールド:局所麻酔下で行った脳外科手術で電極を用いて患者の脳の特定部位を刺激し、どんな感じがするかをたずねた。
3。感覚ホムンクルス:重要な部位が不釣り合いに大きな場所を占める。たとえば、口唇や手指
http://decoppati.exblog.jp/ (ある脳神経外科医の毎日:このブログの右側にある奇妙な人の絵が有名なペンフィールドのホムンクルス)
ティム・ポンズの発見(Science 252:1857-1860, 1991)
1。サルの背側脊髄神経根を切断、11年後に体性感覚の地図を作成。
2。麻痺した手を刺激しても、脳の手の領域は何も活動しなかった。
3。驚いたことに、サルの顔面に触れると、死んだ手に対応する神経細胞群が活発に発火し始めた。
4。サルの顔面から入力される感覚情報は、皮質の通常の顔面領域だけでなく、麻痺した手の領分まで侵入していた。
5。脳の地図を変えることができるという驚くべき発見。
6。成熟した動物の神経回路を変え、結合を1cm以上修正できる。
ラマチャンドランのひらめき
1。ティム・ポンズの発見は、幻肢を説明できるかもしれない。
2。腕をなくした患者で実験、綿棒で感覚の試験を行った。
3。幻の手の地図が顔の上に完成された。
4。ティム・ポンズがサルで見た地図の再配置に対応するもの。
5。顔面が手のすぐ隣に位置する脳の奇妙な身体地図に秘密がある。
6。切断面の数インチ上の上腕部にも手の地図が存在した。
7。顔面、上腕部から出ている感覚神経の線維が空いた手の領分に侵入し、その部位の神経細胞を活性化する?
脳磁図(MEG)による証明 (PNAS 90:10413-20, 1993)
1。体のさまざまな部位を触れた時に、ペンフィールドの脳地図で喚起される局所の電気的な活動を、頭皮の磁場の変化として測定。
2。非侵襲的な方法であり、ペンフィールドの脳地図と極めて似ている。
3。左脳で手の領域が消え、顔面や上腕から入力される感覚がそこに侵入している。
4。驚くべき意味を持つ発見。
1。脳地図が変化すること、しかもときには驚異的な早さで変化。
成人脳の結合状態は固定されているというドグマを否定。
成人脳に脳の可塑性が存在することを初めて証明。
2。幻肢の存在の説明に役立つ。
幻は地図の再配置が起こっている部位に存在。
幻は断端ではなく、顔面や顎から生じる。
笑ったり、顔や唇を動かしたりするたびに、そのインパルスが皮質の手の領域を活性化して、手がまだあるような幻覚をおこす。
成人脳で数日以内に組織化された新しい結合形成の理由は?
1。脳の顔面領域の分布している神経線維が実際に新しい分枝を出し、それが手の領域にむかって成長する?
2。正常な成人脳には、実はおびただしい結合の余剰性があり、その大半は機能していないか、はっきりした機能をもっていないかのどちらかではないか?
顔からの感覚情報が脳の顔面領域にも手の領域にも届いているのではないか?
この隠れた入力は通常は本当の手から来ている感覚線維により抑制されているものと推測される。
下肢を切断した患者ではどうか?
1。セックスをするたびに幻肢に妙な感覚が出現する。
2。ペンフィールドの地図で足が生殖器の隣にある。
3。フェティシズムの人はなぜ足に性的喜びを感じるかは、足が生殖器のすぐ隣に位置していることで説明可能。
いわゆる正常人にも、少し交差配線がある人は多いのでは?
解決されていない問題点
1。幻肢をもつ人のなかに想像の手足を随意的に動かせるという人が大勢いる理由を説明できない。
2。幻肢痛の理由が説明できない。
痛みの一部は地図の再配置によるものではないか?
1。触覚の入力が痛みの中枢につながってしまった?
2。痛みのゲートコントロールの異常?
痛みの記憶を持続している?
3。生まれつき腕のない人ではどうなのか?
幻肢が存在する。
しゃべっている時には手振りをするが。歩行時には腕を振れない。
解釈:話し言葉によって活性化される身ぶりの神経回路は発生の過程で遺伝子によって規定される?身体イメージが少なくとも一部分は遺伝子によって規定されている。
最近の幻肢痛に関する知見
1。四肢切断術後の幻肢痛の発生率が、術前の72時間十分な除痛処置を施すと減少すると報告された。
2。中枢神経系内に残された切断前の痛みの記憶痕跡が影響を及ぼしていることがほぼ確実。
3。切断前にあった痛みが長く続いて中枢神経系内に生じたニューロン活動の変化が次第に固定されて幻肢痛の発現に影響を及ぼす可能性がある。
4。幻肢痛の治療において記憶痕跡の消去が必要。
最近の論文には下記のものがある。
Vilayanur S. Ramachandran, Diane Rogers-Ramachandran: Phantom Limbs
and Neural Plasticity . Archives of Neurology 57: 317, 2000
Peter Brugger, Spyros S. et al: Beyond re-membering: Phantom sensations of congenitally absent limbs, PNAS 97: 6167-6172, 2000
http://1470.net/bm/asininfo/4047913200 (脳のなかの幽霊)
http://psy.ucsd.edu/chip/ramabio.html (ラマチャンドラン)
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/pain-phantom.html#sense (解説)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003130.html (書評)
http://brain.oupjournals.org/cgi/content/full/126/3/579
http://brain.oupjournals.org/cgi/reprint/121/9/1603?ijkey=db301215083ae350c7a5f88ea7b2b89a60f8dbdd (幻肢の総説)
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