多発性硬化症患者におけるフィンゴリモドの副作用(ヒトヘルペスウイルス2感染症で


多発性硬化症患者におけるフィンゴリモドの副作用(ヒトヘルペスウイルス2感染症で

本邦初の死亡例の報告)

第50回名古屋神経病理アカデミー 2013年7月13日

「頸髄中心灰白質と大脳白質にMRIT2高信号を認めた全経過4年の56歳男性」

タイトルを見ると、視神経脊髄炎型(NMO)多発性硬化症なのかなと思って、発表を聞いていたが、なんとフィンゴリモドの副作用による本邦初の死亡例と思われた。

(下記のHPにフィンゴリモド治験参加者170人にうち、2名が悪性リンパ腫を発生しているのを知り、驚いてしまった。神経内科の専門の先生はご存じでしたか?また、血球貪食症候群を発症し、半月で亡くなった症例は今回名古屋神経病理アカデミーで報告された症例と同一であるかもしれない)

http://www.mscabin.org/-article-102.html (MSキャビン)

2013年3月

下記の項目(「使用上の注意」の解説に、国内臨床試験で死亡例があったという記載が心配です)に解説した悪性リンパ腫について、治験参加者のうちもう1名が治験調査終了後に、悪性リンパ腫を発症していたという情報が入りました。この方は生存しておられます。悪性リンパ腫は血液の癌です。

治験参加者170名のうち、2名が悪性リンパ腫を発症しています。フィンゴリモドとの因果関係は明らかではありません。

2012年10月

フィンゴリモドを10か月服用していた男性が、血球貪食症候群を発症し、半月の経過で亡くなりました。血球貪食症候群は免疫細胞が暴走し、自分自身の血球を食べてしまう致死的な病気で、原因としてウイルス感染症や悪性リンパ腫などが挙げられています。フィンゴリモドとの因果関係は明らかにされていません。)引用終了

症例:

4年前より両手先のしびれ、脱力で発症。頸髄MRIにて第2頸椎下端~第6頸椎中間レベルの脊髄中心灰白質にT2WIで高信号の長大病変と軽度の脊髄腫大、頭部MRIにて側脳室周囲に多発する卵円形の深部白質病変を認めた。抗アクアポリン4抗体は陰性。他院にてMSの疑いにてインターフェロンβを導入したが、発熱と全身倦怠感のため中止。ステロイド内服。1年前からステロイド内服中止、月1回ステロイドパルス療法、4回施行。

X年4月より急速の両下肢の脱力。5月よりフィンゴリモド内服開始。(他院)

9月中旬下肢の脱力が悪化。救外受診。38.2度の発熱;腸炎に伴うUhthoff現象(MS患者で体温上昇により運動機能の低下が生じる現象。入浴や運動などによって体温が上昇した時、神経症状が増悪する所見) あるいはMSの再発を疑い入院した。

検査所見:WBC5700(好中球88.9%, リンパ球6.2%) CRP 1.18 AST 37 ALT 80

頭部MRI:両側側脳室周囲に散在性にFLAIR像高信号域あり

頸髄MR:第4-5頸椎レベルの頸髄中心灰白質にT2WI高信号、同部位の頸髄は萎縮

入院後経過:

発熱は経口抗生物質投与にて解熱、両下肢の脱力が残存、ステロイドパルス療法2回施行。下肢脱力の改善を認めたが、2回目のステロイドパルス療法中に咽頭痛、右扁桃腺の腫大あり。経口抗生物質を使用。パルス療法終了翌日38.1度の発熱。フィンゴリモドの中止はこの時点で行われたと思われる(記憶が不正確)。中等度の肝機能障害と血球減少、フェリチン高値(フェリチン28742, Plt 3万)PT-INRの高値。骨髄穿刺にて血球貪食症候群と診断。各種の治療を施行したが、DIC、敗血症、急性肝不全を呈し、10月初旬に急性腎不全にて死亡した。

剖検

多発性硬化症;活動性の炎症細胞浸潤は乏しい。

肝臓:HSV-2の広範な感染症があり。脳にはHSV1, HSV2の感染所見はなかった。

質問

免疫抑制作用を持つフィンゴリモドを継続してステロイドパルス療法を施行したことには問題はなかったのでしょうか?また、MSの増悪と解釈して、ステロイドパルス療法を施行していますが、発熱によるUhthoff徴候であったと思われます。PMLの患者にステロイドパルス療法を2回施行し、病状が悪化した症例を経験していますが、ステロイドパルス療法の施行には注意が必要です。

回答:フィンゴリモドの治験で2例の死亡例が報告されていますが、両者ともフィンゴリモドを継続したまま、ステロイドパルス療法を施行していました。フィンゴリモドを中止しても血中から消失するまで2か月かかると言われています。

発表終了後に演者に早急に症例を英文にして、Neurologyに報告するように勧めた。その夜、Google scholarで検索すると、去年の11月にフィンゴリモドの副作用に関連した症例報告が4件あり、Gildenらがeditorialで素晴らしいコメントをしていた。

Bourdette D, Gilden D. Fingolimod and multiple sclerosis: four cautionary tales. Neurology.  2012; 79(19):1942-3.

4症例報告から明らかになった2つの教訓がある。

1. ある患者ではフィンゴリモドは逆説的だが、MSを活性化し、さらにはtumefactive

な病変を引き起こす。他方、治療の中止は疾患活動性の著明な増加やrebound様反応と関連する。したがって、臨床家はフィンゴリモド治療中も治療後もMSの悪化に警戒すべきである。

2. フィンゴリモドは感染/ウイルス再活性化や悪性化のリスクを増加させる免疫抑制作用

を持っている。大規模多施設試験では感染や悪性化について有意な問題点を提起できなかったが、VZVが脳神経を多発性に、中枢神経系に進展する症例が報告された。また、メラノーマの症例が報告されている。

再発性MSに対する免疫修飾・免疫抑制療法が増加し続けるにつれ、我々はこれらの投薬のリスクとベネフィットに関して用心深くなる必要がある。この号で発表された症例報告は大規模多施設試験では同定されなかったリスクを認識するのに役立つ。MSに対する新しい治療で今までには認識されていない合併症について警戒を続けることと、これらをFDAと我々の同僚たちと共有することが我々の責務である。

(As immunomodulatory/immunosuppressive treatments for relapsing MS continue to increase, we need to be vigilant as to the risks and benefits of these medications. Case reports such as those presented in this issue help us to recognize risks that were not identified in large multicenter trials. It is our responsibility to remain alert to previously unrecognized complications of new therapies for MS and to share these with the Food and Drug Administration and our colleagues.)

フィンゴリモドは日本では2社から販売されているが、ジレニアは、ディオバンの治験で不正が発覚したノバルティス社から発売されている。フィンゴリモドの追加の副作用報告について、何の広報活動もない。Neurologyの文献の紹介でもすべきであると思うが、販売促進だけではいけない。

Femke Visser, et al. Tumefactive multiple sclerosis lesions under fingolimod treatment. 79:2000-2003; 2012

John N. Ratchford, et al. Varicella-zoster virus encephalitis and vasculopathy in a patient treated with fingolimod.  79:2002-2004, 2012

Diego Centonze, et al. Severe relapses under fingolimod treatment prescribed after natalizumab. 79:2004-2005, 2012

Claus Michael Gross, et al. Multiple sclerosis rebound following herpes zoster infection and suspension of fingolimod. 79:2006-2007, 2012

http://www.gilenya.jp/m_measure/index03.html

感染症発現状況

・ジレニアの薬理作用(末梢血中のリンパ球減少作用)により、本剤投与中に細菌、真菌、ウイルス等による感染症が現れることがあります。

・本剤の国内臨床試験における感染症の発現率は45.3%(73/161例)であり、主なものは鼻咽頭炎(28.0%)、咽頭炎(5.0%)、膀胱炎(3.1%)、気管支炎(1.9%)などでした。

・ なお、海外臨床試験では、本剤1.25mg※群で播種性帯状疱疹、ヘルペス脳炎による死亡例が報告されています。

・ 国内および海外の臨床試験でともに、リンパ球数<200/mm3を示した症例が、ジレニア投与群でプラセボ群よりも高率に認められました(表)。

・ 本剤は消失半減期が長く(6~9日間)、投与中止後の本剤の血中からの消失には最長で2ヵ月かかる場合があり、その間はリンパ球数減少などの薬力学的効果も持続するため、感染症の発現等に注意してください。なお、通常、リンパ球数は投与中止後1~2ヵ月以内に正常範囲内に回復します。リンパ球数は、投与開始15日後までにベースライン値から約70%減少し、その減少作用は投与期間を通して持続することが示されています。

感染症で死亡に至った症例

● ジレニアの海外臨床試験において、2,315例中12例で重篤なヘルペスウイルス感染が認められました。

● 12例中、8例で局所的な帯状疱疹ウイルス感染、1例で局所的な単純ヘルペスウイルス感染、3例で播種性ヘルペスウイルス感染を発現しました。

● このうち、播種性ヘルペスウイルス感染(播種性帯状疱疹、ヘルペス脳炎)を発現した計2例が死亡しました。[承認時評価資料]

■ 海外臨床試験で確認された死亡例2例

「播種性帯状疱疹」により死亡した1例

「ヘルペス脳炎」により死亡した1例

【経過および処置】 ジレニア1.25mg※治療に加え、多発性硬化症再発のためにステロイドパルス療法を実施、および経口ステロイドを服用した状況で「水痘・帯状疱疹ウイルス」(VZV)に初感染し、その後急激に重症化して死亡。

【V Z V 既往歴】 水痘感染症の既往歴なし。VZVの予防接種歴なし。VZVのIgG抗体検査陰性。

【V Z V 感染経路】 水痘患者が報告されていた育児・保育園センターに勤務していたために感染したと推定される。

【経過および処置】 ジレニア1.25mg※治療中、数日間にわたる断続的な高熱および発作がみられ、多発性硬化症再発の疑いによりステロイドパルス療法を実施。初期症状から1週間後に「ヘルペス脳炎」と診断され、アシクロビル投与と脳浮腫治療を開始したものの、脳機能は改善せず死亡。

□ 【警告】より

ステロイドパルス療法が複数回施行された症例で、播種性ヘルペスウイルス感染による死亡例、およびEpstein-Barrウイルス感染によると考えられる悪性リンパ腫およびリンパ増殖性疾患等による死亡例が認められていることから、多発性硬化症の再発と思われる症状がみられた場合、およびステロイドパルス療法を行う場合には、感染症等に由来する症状でないかを慎重に鑑別した上で治療してください。

□ 【禁忌】より

重篤な感染症のある患者に対しては、ジレニアを投与しないでください。

□ リンパ球数について

本剤投与開始前に血液検査(血球数算定等)を行うとともに、投与中には定期的(投与開始15日後、1、2、3、6ヵ月後、それ以降は3ヵ月ごと等)*に血液検査を実施してください。

リンパ球数が200/mm3を下回った場合には、2週後を目処に再検査を実施し、連続して200/mm3未満であった場合には、原則として投与を中断し、リンパ球数が回復するまで患者の状態を慎重に観察するとともに、感染症の徴候に注意を払うなど、適切な処置を行ってください。

投与再開については、リンパ球数が600/mm3以上まで回復することを目安とし、治療上の有益性と危険性を慎重に評価した上で判断してください。

□ 水痘・帯状疱疹について

本剤投与中に水痘または帯状疱疹に初感染すると重症化するおそれがあるため、本剤投与開始前に水痘または帯状疱疹の既往や予防接種の有無を確認し、必要に応じてワクチン接種を考慮してください。

接種する場合はワクチンの効果が十分に得られるまで、本剤投与開始を延期してください。

□ 感染症の発現時について

患者に対し、感染症状(発熱、けん怠感等)が現れた場合には直ちに主治医に連絡するよう指導してください。

治療中に感染症が疑われる症状が認められた場合には、本剤の投与中断を考慮するとともに、早期に適切な処置を行ってください。

重篤な感染症が発現した場合には本剤の投与を中断し、適切な処置を行ってください。投与再開については、感染症の回復を確認し、治療上の有益性と危険性を慎重に評価した上で判断してください。

本剤投与中止後、リンパ球数が回復するには最長2ヵ月かかる場合があるため、その間は感染症に対し注意が必要です。(引用終了)

下記はMS治療ガイドラインにフィンゴリモドについての追加のものであるが、Neurologyの4例の症例報告は引用されていない。

http://www.neuroimmunology.jp/_files/ms-fingorimodo.pdf (日本神経免疫学会)

https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/fingolimod.pdf (日本神経学会)

海外臨床試験では1.25㎎群で播種性帯状疱疹1例、ヘルペス脳炎1例の計2例による死亡例が報告されている(TRANSFORMS試験)(8)。国内第II相臨床試験でEpstein-Barrウイルス感染によると考えられる悪性リンパ腫およびリンパ増殖性疾患などによる死亡例が1例報告されており、剖検が実施され、脳のびまん性大細胞型Bリンパ腫、肺、腎および甲状腺のリンパ増殖性障害、皮膚T細胞性リンパ腫と診断された(2、3)。これらの死亡例の経過から、【警告】として、いずれの症例もステロイドパルスが頻回施行されていることから、MSの再発と思われる症状がみられた場合、およびステロイドパルス療法を行う場合には、感染症に由来する症状でないかを慎重に鑑別したうえで治療しなくてはならない。本剤投与開始前に血液検査を実施し、投与中も定期的に行う。重篤な感染症が現れた場合には本剤の投与を中止し、適切な処置を行う。

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